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□譲り合い≒取り合い
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「冥、そろそろいいだろう?話がすすまん。それで……どちらが美味しいのか判定してほしいとのことだが……肝心のモノは何処にあるのかね?」

とりあえず鞭の応酬を止めてやりながらごく当然だと思われることを聞いた御剣に、何故か成歩堂と真宵はええっと、と顔を見合わせる。
どうかしたのだろうかと眉を顰めて返答を待っていると。

「いやさ、一応けっこう大量に作ったんだけどね」
「思いのほか美味しくって……食べちゃったんですよ。ほとんど」
「貴方達……まさか、人を呼び出しておいて無くなってしまいました、なんて言うつもり?」

ギロリ、と冥が成歩堂達を睨みつける。しかし、その表情に、単純に無駄足を踏まれたという怒りのほかに、成歩堂の手造りと言うレアなものを食べられなかったことへの悔しさが色濃くにじんでいることに、同じ表情を浮かべている御剣だけが気付く。
ただその迫力に怖れをなしている体の成歩堂たちは、軽く抱きしめあうようにして互いの腕を取って向き合い震えていた。
ム、と御剣の眉間の皺が深くなり、冥の掲げた鞭の高さが上がる。
いくら成歩堂と真宵の関係に恋愛が全くこれっぽっちも含まれないと分かっていたところで、やはり好きな相手が誰かと接触しているのは喜ばしいことではない。

「ほとんど、と言ったな。残ってはいると言うことか?」
「そ、そうなんだ!うっかり大部分を食べた後で気付いて、真宵ちゃんと取っておいたんだけど――」

助かった!とばかりに御剣の言葉にすがった成歩堂はそうなんだよ!と立ち上がる。
そそくさと冷蔵庫に向かい、戻ってきたその手には一枚の皿、に、乗った塊が二つ。
ほんのりピンク色の二つはほぼ同じ大きさだが、表面のざらつきが違う。なるほど、作り方、もしくは作り手が異なると一目で分かった。

「結局残ってるのはこれだけなんだよね、こっちが真宵ちゃんがつくったやつで、こっちが僕が作った奴」
「なんだ、残っているではないか」
「まぁね、でも2個しかないし。真ん中にいちごが入っているからさ、わろうとしてもぐちゃってなっちゃうからどっちかしか食べられないんだよね。これじゃぁ比べてどうって話にはできないなぁって思って」

なるほど、と頷いてから検事たちは、はたと我に返って気付いた。
つまりはいま成歩堂の手元にある二つのうち、片方が御剣で片方が冥の口に入ると言うことである。
御剣が視線を向ければ、同じように冥も御剣を見つめていた。お互いが、同じことに気付いたと、察する。
ぎらりとそれぞれの目が強く光ったような、気がした。

「……怜侍、あなた疲れているんでしょう?安全な綾里真宵の作った方を譲ってあげるわ」
「何を言う。女性にわざわざ危険な成歩堂の作ったものを押し付けたりはできないのだよ」
「あら。貴方がそんな男尊女卑な言葉を口にするなんてね」
「男尊女卑?区別と差別を一緒にするとはキミらしくないな」
「よく言うわね……対等な人間にそんな気遣いは不要!貴方の方が年なのだから、内臓も弱っているでしょうよ」
「ぐ!……いや、経験により危険を避けるすべを習得しているので問題ないのだ。君の方が危ないのではないかね?」

いきなり始まる応酬。
どちらも言葉の表面上では真宵の作ったいちご大福を相手に譲っているように見せかけて。
その実、成歩堂の作ったいちご大福を我が物にせんとしていた。

傍から見ている成歩堂と真宵はそれぞれに呆れる。

(うっわー、わかりやすいなぁ二人とも。素直に言えばいいのにね)
(そりゃ真宵ちゃんの作った方がいいのはそうだろうけど。なにもそこまで譲り合う?なんか仲いいのは良いけどいちゃつくなら他の場所でやってほしいなぁ)

「おいおい、コネコちゃんその感想は無いんじゃないかい?気付かないってぇのは罪だぜ?」
「ってゴドーさん!?いつの間にいらしてたんですか……の前に人の心読まないでください!しかも意味分からないし!」

ほんとうに突然、会話に入ってきたゴドーにまるで心が読めたかのような言葉を掛けられ、ぎょっとする成歩堂。それにしてもいつの間に事務所に来ていたんだろう……と驚いていると、ゴドーはまた心を読んだかのようにこともなげに答える。

「あぁ?人間が煙みてぇに沸き上がるわけねぇだろ。ちゃんと事務所のドアから入ったぜ?」
「え、あチャイム鳴らしてくれたんですか?すみません、気がつかなくて」

慌てて恐縮した顔をする成歩堂の隣で、真宵があれ?と首を傾げる。事務所のドアの方をみて、もう一度ゴドーを見て。その視線の意味するところに当然ながら気付いているゴドーはあっさりとネタばらしした。

「いや?チャイムなんて押してないぜ!この前来た時にちょいと合鍵を拝借したからそれを使ってな」
「犯罪じゃないですか!!!」

即行で入ったツッコミと、返して下さい!という叫びはさらりと無視して。
ゴドーはクク、と喉で笑うと突如増えた人間に気付くことなく言いあいを続けている検事二人を見ながらニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
そして、成歩堂がまだ手に持っている二つのいちご大福を確認して、一つ頷く。

「成歩堂、お前が作ったのはどっちだ?」


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