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□掛けるものは?
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「お、オドロキ君もノリが良くなってきたじゃない」

へらへらと笑いながら成歩堂さんは雑然と積まれたモノの中からトランプを取り出した。
仕事道具とは違って1種類だけのそれを流石に丁寧に切りながら、成歩堂さんは口を開いた。

「で、オドロキ君はかったらどうしたいの?」

まってました、とばかりに俺は笑みを浮かべ、大きく息を吸い込むとそれは!と叫んだ。

「俺が勝ったら次の法廷。成歩堂さんには俺の助手として手伝ってもらいますからね」

ぽかん、と口を広げて。
トランプを切る手を止める成歩堂さん。
多分予想外の要望だったのだろう。
直ぐに弁護士に復帰してもらう事は不可能だし。だからと言って別の仕事で稼いでもらいたいと言うわけでもない。俺が押し付けられている家事を代わりにやって貰いたいとも、まぁちょっとは思うけど、どっちでもいい。
ただ俺は。憧れの人が法廷に立つ姿を見たいんだ。
それに、二人で弁護席に立つのって、なんか……おこがましいけど、相棒、みたいで。
くすぐったい。

「ふぅん、なるほどね。そう来たかぁ」
「ダメとか言わないですよね!おれ、絶対勝ちますから」

腕輪を反対の手で摩りながら、決意を込めて大きな声で気合を示す。
至近距離だから鼓膜にいたかったのか、軽く耳を抑えて苦笑する成歩堂さん。
しまった、ちょっと恥ずかしかったかも。
でも、撤回なんてしないからな!

「別にダメなんて言わないよ……けどそうだなぁ、それだけおおきな事だったら……僕は何にしようかな」

そ、そうか!
成歩堂さんの言葉に今更ながら、俺の願いと対等になる願いを浮かべて蒼くなる。
うわ、何を言われるんだろう…もう1件依頼を増やすとか?
それとも給料なしで働けとか…?
いや、勝てばいいんだって!勝てば!

内心の混乱を見越したのか、成歩堂さんは俺の顔をちらり、と見つめてから。
にやりと口元に緩く弧を描いて蠱惑的な微笑みを浮かべる。

どきり、と心臓が大きく脈打つ。
な、何を言う気なんだ?
冷や汗がどばっと、法廷で牙琉検事に追いつめられている時と同じくらい溢れる。

「そうだねぇ――じゃぁ僕が勝ったら、さ」

その後に続いた言葉は、正に予想外。



「――キスしてあげようか?」



「キキキキ、キス!!!!」

思わず叫んでしまった俺に成歩堂さんはふふ、と笑った。

「うん、唇にキス、とか面白いかもね」

なんだよそれ!声にならない叫びに口がパクパクと動く。

「それとも、僕にキスなんてされたくないかな」
「そんな筈ないです!」

思わず言いきってしまった。
絶対に勝たなきゃ、と思っていた決意が乱れる。
どっちも俺にとっては嬉しいような……いや、でも。法廷に立つ姿を、今を逃したらいつ見られるか分からない。
司法試験に受かってもその後には研修が待っている。いつかはみられると思っていても、いつかが本当に来るかなんて確証はない。
でも、成歩堂さんのキス!?うわぁ、どうしよう!そんなの欲しいに決まってるじゃないか!


「うんうん、その葛藤。面白いねぇ〜」

くく、と意地悪げに笑った成歩堂さんは手にしていたカードをささっと配る。
そして自分の手札を広げると、テーブルに残った伏せられたカードを指差した。

「――それとも、勝負を降りるかい?」

誘惑に逆らえるはずもなく、俺はふらふらとした動作でカードを手に取る。
スートと数字を確認して、頭の中で役を組み立てる。
成歩堂さんの張りつけた笑顔と言うポーカーフェイスを読みとって…
うわぁぁぁ、どうすればいいんだ!?
おれ、勝てばいいの?負ければいいの?

混乱した頭と体はまともな働きを失っていて、とても見抜く力が働く状況じゃなかった。




そんな、完全にパニック状態で勝負の流れを必死で考える俺に対し、成歩堂さんはカードで顔を隠して笑っていた。
その唇が「僕はキスしてあげる、で確定なんて言ってないけどね」と、声なく形どっていたのには、当然のことながら。
――おれは、気付くはずもなかった。





騙された!




Fin.




読んでいただいて有難うございました!

Twitterで行われてます素敵企画、「逆裁トランプ企画」への参加作になります。
主催様、素敵企画有難うございます!

なんか通勤する車の中でふっと、思い浮かんだネタで勢いに任せて書いてしまいましたが。
一応オドナル(オド→ナル)のつもりです。初めてのCPだ!
いろいろ御見苦しい点あるかと思いますが書いていて楽しかったです!

2012/06/11 UP



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