「せっかくだから開けていい?」 尋ねると、「馬鹿が馬鹿なこと聞かないでちょうだい。」 とねめつけられる。 肯定の意味だと理解してそっと包みを開くと煌びやかな装飾のついたチョコレートが入っている。 一粒をひょいっと口に放りこんだ。 滑らかな舌触りに濃厚な味が広がる。 ビターなそれは甘過ぎず、ちょうどいいくらいでとても美味しい。 「ありがとう。」 笑って言えば気まずげに目を逸らされた。 微笑ましさにさらに笑ったとき、ふと気がつく。 腕を組んだ彼女の白い指先に、絆創膏が張られている。 いつも鞭の似合わない綺麗な手をしているのにどうしたんだろう? 「それ、怪我したの?」 法廷とは違ってゆっくりとした動きで僕が指差した先に自分の手があることに気付いた冥が、一瞬うろたえたように見えた。 「な、なんでもないわ。ちょっとミスしただけよ。」 さりげなく傷のついた指先を僕の目線から逸らそうとする。 その動きがいっそう疑問を煽って、その理由を考えた。 何も思いつかない思考回路にふと手の中の小さな重みが刺激を与える。 カンペキ主義の彼女だったらどうするだろうか? もしかしたら・・・そう思って彼女がさっきブランドのチョコレートを取り出した小さなバッグを確認する。 わずかに開いた隙間から・・・茶色の何かが見えた気がした。 うっすら光っているのは半透明のフィルムかもしれない。 思わず嬉しさから声をだして笑ってしまった。 突然笑った僕を冥がいぶかしむ。 「どうしたの?ついに頭が可笑しくなってしまったのかしら?」 僕は即座に首を横に振った。 「手を怪我してまで僕のために時間を割いてくれたんだなって思って。」 ぎょっとした、という表現がふさわしいくらいに目を見開く冥。 冷や汗がうっすらと浮かんでいるのがわかる。 「な、なんのことかしら?」 ごまかしているつもりかもしれないけど。 悪いけど、僕の勝ちだ。 「ブランドのチョコレートもいいけど。せっかく作ってくれたのに僕にはくれないの?」 「・・・言っている意味がわからないわよ、成歩堂龍一。」 「何事にもカンペキを求める狩魔だからね。チャレンジしたはずだと思うんだ。 カンペキなバレンタイン・・・手作りチョコに。」 うっと小さくうなる。 無意識に手がバッグを覆うように動く。 バレバレだよ、狩魔冥。 「せっかくもってきてくれたんだから、欲しいんだけどな。それ。」 ビシ!と音がしそうな勢いでバッグに指を刺す。 「こ、これはっ。違う・・関係ないものよ」 その態度が逆に肯定を示してるって、パニックになっている彼女は気付かないようだ。 しかたない。違う方向に揺さぶってみるか。 「それとも・・・僕以外に渡すつもりだったの?それ。」 千尋さんがいたら、ちぃちゃんと付き合っていたときの僕みたいだと言ってくれたかもしれない。 寂しそうな表情を、意図的に出す。 これでも昔は役者志望だったしね。 目の前の彼女もうっかり騙されてしまったみたいで。 「そ、そんなわけじゃなくて・・・これは、その・・・」 慌てて、どうしようかと思案しているのが見て取れる。 普段は凛としたところばかりだから、たまにみられるこういうところは可愛い。 やがて、口をなんどか閉じたり開けたり繰り返した後に。 「・・・わかったわ。・・・でも一言でも何か言ったら鞭が乱れ飛ぶわよ。」 |