TEXT2 (NL)

□素直になれない
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「トリックオアトリート!」

執務室に入るや否や突然叫んだ成歩堂龍一にびっくりして固まってしまった。

「な、い、いきなり何!?」
「え、だからトリックオアトリートって・・・ハロウィンってやつ?アメリカにいたなら君の方が詳しいんじゃないの?」

さらりと言った男に、むっと眉を寄せる。
12歳から仕事をしてた私にそんな余裕があったと本気で思っているのかしら。
なんだかとても悲しい気がして無視して仕事の書類に向き直ると紙の上に影が落ちる。

「…怒った?」
「…怒ってないわ」

こんなことで怒るほど、私は子供じゃないと。
多分心を読まれていたらそれこそが子供みたいだと言われそうな事を思う

「そう?けど…」

成歩堂龍一はそういうと突然腰を落した、机の端に手をかけて、顔を半分ほど出した状態でこちらを見る。
上目遣いで「泣きそうに、見える」びくりと肩が跳ねる。
こんなくだらないことでと思うのに感情は驚くほど簡単に揺れてしまう。
この男の前では、そうだった。他の場所で、仕事でなら感情を出さない自信はあるのに。
完璧な仕事に、人の感情なんていらないから。

「…何をいっているのか、分からないわね」

誤魔化そうとしたけれど、完全に把握されてしまっているらしいいまは無駄で。

「ごめんね。よくわからないけど…」

それなら謝らないで頂戴、言葉は口から出なかった。
悔しくて、俯く。
頭にふわりと感触が落ちた。
大きな筋張った、男の手。与えてもらった記憶のほとんどないそれがなんだかとても温かく感じる。

「ごめんね、はい」

言って差しだされたのは小さな飴玉がいくつか。
子供扱いして!と言おうとしたのに、何故か私はそれを無言で受け取っていた。

「…悪戯は、勘弁してあげるわ」

決まり文句も言っていないのにそんな言葉を返すと。
くすりと小さな笑みの籠った吐息が零れる。

「じゃぁ僕は、これで悪戯はなしにしてあげるよ」

え?と思って顔を上げると。
額に軽く触れる熱

「仕事、邪魔してごめんね。本題はこれなんだけど」

成歩堂龍一は執務机の上に彼の事務所の名前入りの封筒をおく。

「折角だから、仕事以外の話もしたくて」

イベントにかこつけてみたんだと照れたように笑う顔に、ぎゅっと胸が熱くなった。
手に握りしめた飴玉よりもずっと、甘いそれが…私にとっても悪戯の代わりだと。
素直になれない唇が紡ぐことができないのが悔しかった。 



Fin.




読んでいただいてありがとうございました!
ハロウィンにTwitterで呟いたネタでした

2012/10/28 Twitter
2012/11/25 修正・UP



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