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□答えはない
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熱い、頭がゆだりそうだ…。ぼやける思考回路を駆使して考えることはその程度だった。
ぎしぎしと軋む体も、ぬめる体も、のしかかる重みも今は意識の外にある――いや、追いだした。何でこんな事になったのか考えたくなかった。
苦悶の表情で謝罪を口にしながら、それでも僕を犯すことをやめない親友。

なんで?
どうして?

そんな言葉は最初に全て出しつくしてしまった。
返ってきたのは謝罪ばかり。
嫌がらせ?それとも慰みに使おうとしているの?そんな現実を受け入れたくなくて思考を逸らし続ける。
視界が歪もうと目に違う熱を感じようと、気付かないふりでただ天井を視る。
はやく、おわれ。
ただそれだけ
生理的な感覚は、無かった。
親友は僕の雄を掴んで動かしていたけれど、心がないのに感じられる筈はない。僕の反応にくぅ、と唸る声をあげながらも止めることはせず、意地のように手を、腰を動かす。
何がしたいんだよ…? 
たった一時間前、事務所を訪れたのは異様に淀んだオーラを纏った親友だった。

暗いとも違う、なんだか混沌とした空気を背負った親友に何故か恐れを感じた。
背筋に嫌な汗が伝ったし今考えればあれは本能的な警告だったんだろう。でも僕は親友を追い返すことも出来ず中へいれてしまった。
お茶でも飲む?
冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出そうと、背を向けた瞬間のしかかってきた重み。
体格で勝る親友に抵抗することも出来ず、混乱の最中に剥かれた服が無造作に床に散らばっている。
ああ一張羅のスーツだったのにな。
もう着ることができない布切れと化したそれに意味の無い憐憫を向ける。
僕自身の事を考えたくなくて。
「すまない」
それしか録音されてないテープの様に繰り返される言葉。

ひきつるような痛みはずっと感じていた。
乱暴で一方的な動作は僕自身ですらロクに触ったことのない場所に信じられない痛みを刻む。
でも、それもどこか遠い感覚。
僕の上にのしかかっているこの男は、本当に僕の親友なのだろうか。同じ声、同じ顔の別人かも?
ありえないことを考えていた。信じたくない。


長く長く続いた時間。
実際にどれくらいだったのかはわからない、もしかしたら凄く短かったのかも。でも僕にとっては永遠にすら感じたその行為は、次第に早くなる腰の動きとともに終焉を迎えようとしていた。
変わらず僕らの視線は交錯しない。
ぼたりと大粒の汗が落ちてきたけど拭うこともせず瞼を閉じた
どふ、と嫌な感触がありえない場所にくる。
そこに何をぶち込まれたのか考えたくない。
結局一度も反応しなかった僕のそれはかさついた手に強く擦られて痛みすら残る。
はぁはぁと荒い息を落す『親友』と思わしきその男は未練がましく手を動かそうとしたけれど、限界だった僕は思い切りその胸を突き放した。

「成歩堂」

男の声が僕の名前を呼ぶ。
彼に名前を呼ばれると僕の心はむずむずと温かいもので満たされていた。
でも――いまは、ただ空虚だ。
耳に入ったはずの言葉は心にとどまることなく抜け落ちていく。

「……お前、誰だよ」

決して記憶喪失なわけじゃない。
けど、この男が僕の親友なんだと認められない。

「成歩堂、私は――私は、君の――」

男の目は事務所を訪れた時の混沌が剥がれ落ちていた。その向こうにあるのは寂しさと焦りのようなもの。
焦り?何に?

「僕の、なに?こんなことをしておいて、僕の何だって言うつもりなの?」

まだ互いに肌を晒したまま、僕の下肢には白と赤の混ざったものが伝う。
そこに向かって視線を向ければ、察した男は顔を今更に青ざめて立ち上がると近くに脱ぎ捨てていた自分の服で拭う。
やんわりとした力加減で拭われても気遣いだなんて思えなかった。
白と赤を含んでひらひらとした白い布が朱に染まる。

「すまない、私は――ただ君のことを――」

結局そこで詰まる言葉に笑う。
頬の筋肉がつりあがったような出来そこないの笑顔に目の前の顔が歪んだ。
泣きそうな、顔。
どうしてお前がそんな顔をする?
頭の中だけで問いかけても当然答えはない。それでいい。

「――取り合えず答えもないみたいだし。帰ってくれるかな?」

僕は指で事務所の出口を示し男に退室を促した。

「成歩堂!」
「友人でもないやつを、プライベートスペースに入れたくない」

毅然とした態度を心がけてそれだけ言う。
反論は許さない。
だってお前は僕の疑問に何一つ答えられないのだから。
お前にとって僕は『何とも言えない意味の無い関係』なんだろう?突然、こうして何の言葉もなく、こんな行為が出来るくらいに。

「出て行け、今すぐに」

ドアを差した指は微動もせず、視線も一切動かすことなく目の前の僕にとっての肩書きをなくした男を睨む。
ぐ、と息をのんだ男は泣きだしそうな顔をしたまま、脱ぎ捨てたシャツをはおって起ちあがった。

「すまなかった、成歩堂」

最後にもう一度、上から落ちてきた言葉に絶望する。

カツカツ、ガチャリ…

足音と扉の開閉する音を最後に、しんと静まり返った事務所。
荒れた周囲もそのままに、僕はへなりと崩れ落ちるように床にうつぶせる。
ぐっと閉じた瞼の隙間から熱いものが落ちる。

「僕が欲しいのは謝罪じゃないんだよ、御剣」

1人の部屋で零した言葉を拾う相手は、誰もいなかった。




end.






ここまで読んでいただいて有難うございました。
部屋が余りにも暑くてゆだったので、そんな湯だった言葉から始めたツイートが思いのほかシリアスになってびっくりしました、なネタでした。

2012/07/26




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