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□7月3日
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【今日は何の日A】



凄惨な事件があったバンドーランドが全面的リニューアルをようやく終えたらしい。
事件の解決に尽力したからということで入場無料券を貰ったという御剣にどうせ暇だろう?と嫌みな笑顔で誘われて、悔しいけど依頼がなかった僕も頷いて。
二人、平日の昼下がりから園内を歩いていた。
まだ仮オープンらしく、園内にいる人数は少ない。

「なんかさ、男二人で来るなんて、ちょっと恥ずかしいね」

ほんのり熱く感じる目元を隠すように、眩しい振りをして手を額にかざす。

「このような場所で周囲を気にする余裕など無かろう」

そう言う御剣の視線の先にははしゃいで走り回る小さな子と、諫めながらも笑顔の両親らしき男女がいる。他に見渡してみても、幸せそうなカップルだとか、あるいは仲のよさそうな女の子のグループとか。みんな自分たちが楽しむのに夢中になっていて、僕らになんて構っている時間はないみたいだった。
うん、確かに御剣の言う通りかもね、と頷いてみる。

いつもの服装できたなら悪目立ちしたかもしれないけど、僕はTシャツにジーンズ。御剣はサマーセーターにチノパン。ラフな格好はいい感じに日常に溶け込んでいる……はずだ。
ついでに、と園内に入るときに御剣にかぶせられたタイホ君のニット帽のおかげで、僕最大の外見上の特徴らしいツンツン頭も隠れていた。

一応ここはテーマパークだし、アトラクションも揃っているのだけど。
年齢のせいと言うわけじゃなく、僕らは少ないながらも列を作っている人たちの背中につくことはなく、園内を動き回るタイホくんの着ぐるみを眺めたり、ベンチで座って麗らかな日差しの下で事件の起こらない平和を楽しんでいた。
おじさんを通り越しておじいちゃんみたいだけど、普段の法廷の方がよっぽどエキサイティングでスリルに満ちているし。
せっかく御剣と二人で過ごす休日にまでそんなものは必要ない。

なら別にここに来なくてもよかったじゃないかって言われるかもしれないけど……こういう機会でもないと、二人で外でデートなんてする機会ないからなぁ、と考えて何だか恥ずかしくなる。
デートなんだよな、これ……。
うわ、そう考えると急に恥ずかしくなってきた。
自分の思考に自分で照れると言うのもおかしな話なのだけれど。今更に熱くなってくる。

「ム、どうした?熱中症にでもなったのだろうか」
「え?ううん、違うよ!そこまで酷くないし、ちょっと熱いだけ」

心配性な御剣にうっかりなことを言うと暴走しちゃうから。やんわりと、でもせっかくなので話にのって本当の理由を誤魔化す。

「そうか。ならば待っていたまえ」
「え?」

問い返す間もなく、御剣はさっと走っていくと近場にあった売店で何かを購入しているようだった。どうしたんだろうと、ゆるゆると歩きながら近づく。
ちょうど僕がついた時、支払いも終わって商品が差しだされるところだった。
御剣は手を伸ばして受け取ったそれをぐっと僕の方に差しだす。

「え?」

紅と蒼がぐるぐると混ざり合ったそれは…

「ソフトクリーム?」
「うム、バニラやチョコにしようかと思ったが……ベリー&ベリーと言うのだそうだ」

売店の上に掲げられた写真をみる限りはラズベリーとブルーベリーのMixらしい。

「へぇ、なんか凄い原色してるけど…ありがとう」

熱いといった言い訳を信じて買ってくれたらしいアイスを有り難く受け取る。チロリと一口舐めとってみればほどよい酸味と甘みで凄く美味しかった。
これは結構いいかも。
思わぬ美味しさににこにこしながらぺろぺろと舌で削ぐように食べる。
ひんやりとした感覚が気持ちいい。言い訳だけだと思ってたけど、案外ホントに熱かったんだなと自覚する。

夢中になって食べて、残りも少なくなってきた頃。ふと、御剣は何も手に持っていなかったことに気がついた。

「御剣は?いらなかったの?」
「冷菓はあまり好まないのだよ」

御剣が紅茶と一緒に食べるのは、ビスケットやスコーンなどと、あとはトノサマンまんじゅうだったなと思い出してなるほどと思う。
まだまだ、知らないことがあるんだなと思うと寂しいよりもこれから御剣について知ることができるんだと思えて嬉しい。
でも――

「お前も熱いだろ?一口くらいどう?」

言いながら食べかけのソフトクリームを差し出す。すると御剣は小さく首を振った。
まぁ、僕の食べかけだし、大部分を食べた後だから奇麗な部分はない。
こんなのじゃ食べる気しないかぁ、と食べかけのソフトクリームを眺めながら一人納得していれば。不意に視界が暗く陰る。
あれ?天気が悪くなったのかな…
思ったのは一瞬。ふわりと香るのはソフトクリームとは違う甘い香水――鼻先に触れる湿った温かさ。

「これで、十分だ」

ニヤリと笑う御剣に一瞬ぽかんとして視線を向け――はっと我にかえる。

「み、御剣!!なにすんだよ」

鼻の頭を突然舐められたということに気付いて驚く。こ、こんな往来で!!!

「安心しろ、店員からは死角であるし…アトラクションに夢中な客は気付いていまい」
「そ、そんなこと言ったって――」
「遊園地デートなのだろう?ならば……多少のスリルははくてはな」

にやりと笑う御剣に、さっき考えていたことを読まれてたのか!?と焦る。

「だからって、ばれたら――」
「構わん」
「え?」
「私はまた直ぐに海外研修が始まる。そうすれば君にはめったに会えない……誰かにばれることを恐れて君と触れあいない方がつらい」
「おまえ――」

なんていう恥ずかしいことを、と思う。
けど――僕も。
長くは取れない逢瀬の幸せをもっと感じたいから。

「帰ろう、御剣」
「なんだと?…怒ったのか成歩堂」
「ちがうよ」

さっきあんなに強気だったのに急に弱気になる御剣がおかしくて愛おしい。
僕はくすりと笑って、耳元に答えを告げた。

「お前をもっと感じて覚えておきたいから――家で、もっと僕に覚えさせてよ?」

お前を、と囁きを落とすと、今度はさっきの僕のように、御剣の顔が赤くなる。

「太陽に当てられちゃったかな?」

可愛くてついからかうように言えば御剣は一瞬憮然としたが。
直ぐに不敵に笑って言った。


「ああ、君と言う太陽にな」  



【今日は何の日=ソフトクリームの日】 

ソフトクリームあんま関係ない><;

2012/07/03Twtter 7/5修正UP



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