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□はやぶさ
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のどかな平日の昼下がり。
休憩中の札を扉に掛け、応接セットに陣取った真宵ちゃんが昼ご飯のカップ麺をすすりながら突然ポン、と両手を叩いた。
どうかしたのかな?と意識を向けると。
真宵ちゃんは妙に納得した様子で数度、首を上下した。

「あぁ、何かに似てると思ったらなるほどくんだ!」

僕?
何の事だろうとと首をかしげながら彼女の視線を辿る。
その先には液晶TVが、昼の緩い情報番組を流していた。
既に会話は進んでいたけれど、片隅に表示された派手な字幕化ら察するに「今日はなんの日だと思いますか?」という他愛もない話題について出演者たちが話しているようだった。
遅れながら耳を傾けてみれば、曰く。
6月13日は2010年に、小惑星探査機である「はやぶさ」が地球に帰還した日なのだそうだ。

そういえば、当時は凄く話題になっていたし。僕もまだ高校生くらいだったと思うのだけど、紆余曲折様々なトラブルを乗り越えて帰還を果たしたはやぶさの物語に、感動したことを思い出す。
へぇ、今日だったんだぁ、と感慨深く思いつつも。
だからと言って、その話題から真宵ちゃんの反応に結びつかなくて、疑問符が頭の中を飛び回る。

「わー、ホントそっくり!」

楽しそうに手をもう一度、ぽん、と胸の前で合わせてそんなことを言う真宵ちゃんに、これはもう聞いた方が早いな、と直接問いただすことにした。

「何がそっくり、なの?」
「え?そりゃぁ、なるほどくんとはやぶさだよ!」

僕と、はやぶさが?
意味がわからなくて更に重ねて尋ねる。

「どこが、似てるっていうのさ。っていうか機械と似てるってどういうことだよ」

呆れた口調の僕に、真宵ちゃんは、ちっち、判ってないなぁと、それ以上に呆れた口調で返してくる。

「あのねぇ、はやぶさって何度も何度もトラブルが起きて壊れそうになったけど、そのたびに復活したんだよ!それっていっつも綱渡りで、ぎりぎりのとこでピンチを切り抜けては復活して、ついには無罪判決をもぎ取るなるほどくんと一緒でしょ」

えぇ?そんなことは、ない、と思うんだけどな。
頭を掻いて否定しても、真宵ちゃんは似てるよ!とからから笑って言うばかりだった。

視線をTVに戻す。当時感動的だと思った、トラブルとそれを回避したエピソード。
死にそうになっている擬人化された探査機のイラストなんかもうつされて。
真宵ちゃんの言葉を反芻するうちに、当時は凄い!とただ胸が熱くしたそれが、なんだかハラハラと危なっかしい、心臓に悪いものに見えてきた。
自分のそれと、重ねて…うわぁ、と思う。
僕の表情からで意識の変化を感じ取ったのか、真宵ちゃんは得意げに手を胸の前で合わせて頷いた。

「ね、似てるでしょ!ボロボロでも、カッコ悪くても戻ってくるところがさ」

え、なにそれ、僕のこと褒めてんの?それともカッコ悪いってけなしてるの?
呆れているぼくは、話は終わり!ついでに休憩も終わり!と麺のおわったカップを片付ける。

「えぇ、お客さんいないし、もうちょっとゆっくりしてもいいと思うけどなぁ」

と不満げな真宵ちゃんをいなして、場を切り上げた。
いつお客さんが来るかわからないんだし。無駄話で時間を潰すのは十分だろう。

「いいから、真宵ちゃんはこっちの書類整理しておいてくれる?」
「もー、なるほどくん、ナウでヤングな若者ならもっとのっかってくるって」
「はいはい、どうせ僕は年寄りですよー。いいから仕事ね。依頼人の人生がかかっているんだから」
「ちぇ。わかったよ。もう、成歩堂君てばノリ悪いよね」

ちくりとした嫌みは聞かないふりで。
僕は所長室へ戻って、証拠書類の確認を再開した。





その日の夜。
僕は御剣の家を訪ねていた。
今控えている公判には彼と対決するものはない。
ならばただでさえ忙しい彼と過ごせる時間は出来るだけ大切にしたかった。

熱を交換して睦みあって。
けだるい空気の中でそれでも離れがたくてくっついていた僕は。
ピロートークとしてはどうかと思う選択だったのに昼間に真宵ちゃんとした会話を話題に選んでしまった。
でも僕は、それを笑い話として話したつもりだったんだけど。
御剣は妙に真剣な眼差しで僕の話を聞いていた。
そして、話終えた後に大きく頷く。

「真宵君の言う通り。確かに似ているな」

てっきり笑われて、鏡を見てみたまえとか言われるか、何を非現実的なことを、と馬鹿にされるかだと思っていたのに。
真剣に言われてしまって、僕の方が驚いた。
でも御剣はそんな僕に小さく笑ってそっと指で髪を掬いながら撫でてくる。

「真宵君が指摘したところに加えて言うならば。それまでの常識ではありえなかったことを、発想を変えて実現するところも、君に似ていると思う」

優しい笑みを浮かべながら言われた言葉に、何故か面映ゆくなる。
後世にずっと残る偉業を達成した探査機を持ち出して湛えられたら、なんだか、頑張らなきゃいけないような気持ちになって。

僕は、小さく頷き何故か礼を言ってみるのだった。




Fin.





その後、真宵ちゃんが冥ちゃんとかと話題にしたりして、検事局で何故かはやぶさストラップが局地的に流行ってたら面白いと思います





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