今日もいい天気だなぁ…うん、洗濯日和だ。 洗いたてのシャツをパンと音を立てて伸ばし、洗濯ばさみに差し込む。キラリと太陽の光を反射して輝く白さに笑みを浮かべた。この分なら速く渇きそうだ。成歩堂なんでも事務所には乾燥機なんてないから晴れる日が続くと嬉しいなぁ。そうだ、明日はゴミの日だから今日は念入りに掃除しないと。成歩堂さんはトイレ掃除くらいしかしてくれないからなぁ。最近弁護の仕事も入ってきてたから家事できなかったし、今日は溜まったこと全部やらなきゃ。すっかりオレも主婦が板についてきたぞ……ってちがう! うっかり長々と家事の楽しみについて語ってしまったが。オレは弁護士が本業だ。 最近はそこそこ忙しい日々を送れるようになったが、相変わらずオレの扱いはちょっとひどい。 弁護の仕事は、まだ司法試験を受けていない成歩堂さんには出来ないし、なんでも事務所の雑用は新人の仕事!と飼い猫探しやら落とし物さがしやらもオレが一手に引き受けている。 成歩堂さんは相変わらず時々留守にしていて、まだ極秘任務とやらは続いているらしかった。 まぁ司法試験の勉強はちゃんとしてくれてるみたいだけどさっ なんとなく釈然としない気持ちのまま、切れた集中力でだらだらと片付けをしていると。ピンポーン 来客を告げる電子音が鳴り響いた。 「はいはーい、ちょっと待ってくださいねっ」 これは弁護の依頼か、はたまた「なんでも」事務所への雑用かなのか。期待と不安を交えながら急いで戸口に向かった。 ガチャッ 「はい!いらっしゃいませ、成る歩堂なんで、も……」 言いかけた言葉が途中で止まる。勢い良く開いた扉の向こうには青みがかったストレートの髪を肩上で揃えた、切れ長の瞳の迫力美人だった。貴族風とでもいうのか若干時代がかったというか派手というか、そんな服装が気になるけど間違いなく美人。年の頃は多分宝月刑事と同じくらい?多分、年上。 (綺麗な人だなぁ) 思わずほうけていると女性は訝しげに眉間にシワを寄せた。 「何を馬鹿みたいに馬鹿面を曝しているのかしら。客人を招き入れる程度の礼儀はないの」 わぁ、と困惑する。美人だけどコレはキツいぞ。あはは、と意味のない笑いを浮かべながら招き入れる。 「ど、どうぞっ。こちら、です」 なんとか客人が座れる程度に片付けた応接室セットに通す。ソファを勧めればあからさまに固まる。 「依頼人がは話をするのに落ち着かない環境はどうかと思うわ」 「あ、はいっすみません」 うう、散らかしたの俺じゃないんだけどな…。 むしろ片付けた方なのにと言い返したいが、確かに言われる通り弁護士が依頼を受けるには落ち着かないだろう。実際は便利屋みたいな仕事が多いから問題ないんですけど。 「ところで、今日は何のお話でしょう?」 ソファに腰を下ろして促すと、なぜか彼女は訝しげに眉を寄せた。 「私が依頼?馬鹿を言うのは冗談になさい」 いやいや、じゃあ何をしにここへきてるんですか、アナタ。冷やかしだったのか?と内心がっくりしたその時 ピシィッと高く乾いた音がすぐそばで鳴る。びくっと肩を震わすともう一度、今度はひゅんっと空気を切り裂く音と共に強力な衝撃が体を襲う。 「イタいっ」 ム、鞭!? いつの間にか彼女は頭上に鞭を掲げていた。ピンと伸びた背中と相まって迫力がすごい。 こ、怖い!あるまじき一座とは違うけどみぬきちゃんの知り合いの猛獣使いか何かなのか? ピシィッ 「イタァッ」 「勝手な推測はいただけないわね」 な、なんでわかるんだ?心でも詠めるのか?みぬくための腕輪は見たところないようだけど。女性はちっちっと指を左右に振りながら勝ち誇った笑みを浮かべる。 「常にギリギリの弁護しかできない弁護士の考えなど、検事なら読めて当然よ」 検事?この人、検事なのか? その時、俺は随分昔に読んだ法廷記録と新聞記事を思い出した。 実際に見たことはないけど。 検事で鞭で綺麗な女性、その特徴づけに当てはまる人を一人想像することができた。 まさか… 「貴方は、カル―― 「ただいま〜オドロキくん、コーヒー淹れてくれるか……ってあれ?」 頭に浮かんだ一つの予想に思わず立ち上がって叫ぼうとしたタイミングで、成歩堂さんが帰ってきた。 なにこのタイミングの良さ……もしかして、成歩堂さん近くに潜んでいて出てくるのを狙ってたんじゃないでしょうね!? 「もしかして狩魔冥?」 「ふん、しばらく見ないうちに随分と薄ら汚れたものね。成歩堂龍一!」 異議あり!のポーズで成歩堂さんを指差す女性。 この人が。 ついさっきもしやと思った通り、狩魔検事! |