TEXT2 (NL)

□sweeties(VD)
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『成歩堂龍一!今から言う場所にすぐ来なさい!』
明日の法廷のための資料を借りに検事局まで来ていたときのこと。
突然の電話での呼び出しはいつものことで。
「狩魔冥?相変わらずいきなりだな。」
正直もうあまり驚かなくなってはいるんだけど、一応ため息くらいはついておいても怒られはしないと思う。
『馬鹿のペースには付き合ってられないわ。いいから、さっさといらっしゃい。』
僕の言い分には聴く耳も持たないとばかりに、口早に場所を告げて一方的に電波がシャットダウンされる。
しょうがないなぁ。
そんなのも照れ隠しの一つだと知っているから、彼女には弱い。
強気な彼女の可愛いところでもある。
ちょうどいいことに呼び出された場所はここから近かった。
電話をスーツのポケットにしまい、検事局を出る。
冷たい空気が頬を撫でて、一瞬震えた。


待ち合わせは人通りのそれほど多くない公園だった。
公園について周りを見渡すと、ベンチに座るでもなく腕組みをして鉄棒の支柱に寄りかかる狩魔冥が目に入る。
今日もいつもの目立つ服装で周囲の視線を集めているんだけど、本人はまったく気にしてない。
興味のない人間には徹底的に無視で対応するからなぁ。
その割に親しい人間は無視できないところもあって、そんなところが可愛い。
口に出したら鞭が飛んでくるから言ったことはないけど。
「やぁ、狩魔冥。」
なんとなくマヌケな呼びかけだ。
振り向いた彼女に軽く手を振る。
「遅かったじゃない、成歩堂龍一。」
常備している鞭に手を掛けて睨み付けてくる。
「電話が来て直ぐ駆けつけたんだけど?走ってきたのになぁ。」
実際、僕の息は口元を白く覆っている。
突然に呼び出した自分をちゃんと知っているから、鞭が風をきることはなかった。
「で、何か急な用事?」
過去に呼び出されたときは事件のことだったり、本人のいないところで話した内容についてご指導が入ったりが多い。
なにか狩魔冥の担当している事件に必要なことがあったのだろうかと確認を取れば、彼女にしては珍しく口篭もって視線をそらした。
うっすらと、顔が赤味を帯びている気も、したり。
「どうしたの?なんか事件でもあった?」
「べ、別に…何もないわ。私の立証は常にカンペキなのよ。」
キッと切り返してくる眼光も、いつもよりも焦りが混じっている。
んー、でも。
これは確かに仕事関連の話ではなさそうだ。
「ちょっと渡したいものがあっただけよ。」
そう言って斜めに視線をそらせる彼女はなんだかいつもよりも幼く見えた。
渡したいもの?なんだろう?
首をかしげて思いつかない頭を回しているといきなり四角いものが飛んでくる。
慌てて受け止めて見ると綺麗にリボンの掛かったプレゼント仕様の箱だった。
聞き覚えの有るブランド名が刻印されている。
過ぎるくらいにあからさまな包装に、その中身がチョコレートだということが分かって。
「そうか、今日はバレンタインだったんだ。」
通りで街がやけに浮かれた空気に包まれているはずだ。
漸く納得が言って頷くと。
「馬鹿でもそれくらいは覚えていなさい。」
といらだつ声がする。
慌てて受け取ったあと何のリアクションもしていないことに気づいて。
「有難う、狩魔冥。」
笑顔で言うと、
「義務としてこれくらいはね。」
努めて冷静を装っているけど、顔がうっすら赤い。ハッキリとした彼女に珍しくさっきから視線をあわせてくれないのは恥かしがっていたからか。
常にない可愛らしさに顔が緩む。


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