さくらと虹の夢
□未来に咲く花
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『…好きなんだ』
あの日から、ずっとさくらの頭を離れないのはこの言葉。
あれから瑞稀は何事もなかったかのように話し掛けてくるが、さくらはどこかぎこちなく、今まで通りに話すことが出来ないでいた。
(…だって、あんな風に言われてどうやって接したらいいの?)
「…さくら」
「ほぇっ!?」
突然名前を呼ばれて、さくらは思わず体を震わせた。
見れば、小狼が訝しげにさくらを見つめている。
「最近ぼーっとしてる事が多いぞ、やっぱり何かあったのか?」
「ううん、何も…」
小狼が淹れてくれた紅茶を一口飲んで、ホッと息をつく。
ただでさえ勘の良い小狼がさくらの異変に気が付かない訳がなく、ここ数日、小狼には「何かあったのか」と何度も聞かれていた。
その度に、さくらの下手な嘘で誤魔化してきたのだが、小狼は気づいているのかいないのか、いつもそれ以上は聞いて来なかった。
「今日はこの辺にしておくか、さくらも疲れてるみたいだしな」
小狼はそう言うと、テーブルの上に広げていた教科書をパタンと閉じた。
「ほぇ?」
「それ飲んだら、送っていく」
小狼に気を遣わせたことが申し訳なくて、さくらは無意識に俯いた。
「さくら?」
そんなさくらの様子に、小狼は不思議そうにその顔を覗き込む。
「ごめんね、小狼くん…。でも大丈夫だから」
精一杯の笑顔を作って、笑ってみる。
小狼はさくらの顔をしばらく見つめ、やがて軽く溜息をつくと、頭をポンポンと撫でた。
思わずさくらの頬が赤く染まる。
そして小狼は何も言わずに、飲み干したマグカップを手に、台所へ向かった。
「小狼くん…、ありがとう」
さくらは小狼の後姿を見送りながら、ポツリと呟いた……――――。