さくらと星の夢

□大切なきみ
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「き、ききき木之本さん!!」

「??」


学校の廊下を歩いていると、突然名前を呼ばれて、さくらはクルリと振り返った。
するとそこには見知らぬ男子学生が一人立っていて、さくらを見つめていた。

ふくよかな容姿に厚めの黒縁眼鏡を掛け、首にカメラをぶら下げている少し近寄り難いその少年は、さくらが振り返るとポッと頬を染め口元を緩めた。
少年のその様子にさくらは思わず一歩下がって距離をとる。


「あ、あの…なんですか??」


さくらが恐る恐る尋ねると、少年はカメラを手に持ちさくらに詰め寄った。


「ぼ、僕写真部なんですけど、木之本さんチアリーディング部ですよね?それで良かったらユニフォーム姿を撮らせてもらえないかと…!」

「えぇ!」


少年は一気に捲し立て、レンズ越しにさくらを覗き込む。


「あ、あの…えぇっと…」


さくらは少年のあまりの勢いに恐怖すら覚えながら、思わず口篭もった。


「一枚だけでいいんです!!」


さくらが大人しいのをいい事に少年は更に勢い付けてくる。


(ほえぇぇ〜!怖いよぅ〜)


さくらが心の中で悲鳴を上げた時――――――。




「ダメだ」




聴き慣れた、よく通る真っ直ぐな声が耳に届いた。


「しゃ、小狼くん!!」


いつの間にか自分の後ろに立っていた小狼に驚いて、さくらは思わず声を上げる。


「チアリーディング部の奴なら他にもいるだろう」


小狼はさくらを庇うようにして立ち、少年に強い視線を送る。少年はググッと腰を引きながらも、精一杯の反抗を試みた。


「ぼ、ぼぼぼ僕は木之本さんを撮りたいんです!!」

「さくらはダメだ」


少年の必死な言葉も小狼の一言であっさりと吐き捨てられてしまった。そして小狼は少年をジロリと睨みつけると、


「行くぞ、さくら」


と、少年に背を向け歩き出す。
そのすぐ後をさくらが追い、少年はその場に一人残された…―。


「そ、そんなぁ〜…」







「ありがとう、小狼くん。助かったよぉ」


さくらが礼を言うと、小狼は少し不機嫌そうな顔をしてさくらを見つめた。それはさくらにも分かったようで、不安そうにその顔を覗き込む。


「あ、あの…小狼くん。もしかして、怒ってる?」

「…さくらには怒ってない」


小狼はポツリと呟いて小さなため息をついた。


「さっきの男には怒ってるけど…」


そう言って不安げなさくらの頭をぽんぽんと撫でた。
するとさくらは俯いて、小狼の制服をきゅっと握った。


「ごめんなさい、もしまた今度あんな事があったらちゃんと断るから…」

「おまえが悪いんじゃない。これからはちゃんとおれが守るから、心配するな」


小狼はそう言ってさくらの頬を両手で包み込んで上を向かせる。
大きなその瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
その目を合わせて、小狼は優しく微笑む。するとさくらも自然と笑顔になってニコリと笑った―――。


「…ありがとう」








 

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