さくらと星の夢

□狼さんは飲酒禁止
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次にさくらが目を覚ましたのは、ガチャリという金属音が耳に届いたからで。


「ほぇ‥」


さくらは寝ぼけ眼に起き上がって反射的にフラフラと玄関へ歩いていく。


「あ、小狼くん‥」


玄関にはずっと帰りを待っていたこの部屋の主がそこにいて、さくらの胸がきゅうと締め付けられた。


「おかえりなさい!」


小狼の姿を見て、一気に眠気の覚めたさくらは嬉しそうに駆け寄る。
靴を脱いだ小狼はゆっくりと身体を起こしてさくらを見た。


「ほぇ?小狼くん?」

「…ただいま、さくら」


けれどいつもと違う小狼の様子に、さくらは思わず首を傾げた。
頬はほんのり紅く、茶色い瞳は心なしか潤んで見える。


「どうしたの?小狼く…わっ」


その顔を覗き込もうとすると突然抱き締められて、さくらは声を上げた。
その瞬間つんとアルコールの匂いがさくらの鼻を通り抜けて、眉を寄せる。


「小狼くん、お酒くさい…」

「んー…ちょっとな」


首筋に掛かる小狼の息使いがいつもより熱くて、さくらの心臓がドクンと脈打った。
さくらの身体に寄りかかるようにして抱きつく小狼の背中をポンポンと撫でて、その身体を離した。


「とりあえず中に入ろう?お水持ってくるから」

「あぁ…」


小狼をソファに座らせるとさくらはキッチンへ向かった。
そしてコップに水を注ぎながら考える。
今までにも小狼と一緒にお酒を飲むことはあった。
けれど小狼があそこまで酔う所は見た事がなかったので、さくらには意外だったのだ。
なんとなく、さくらの中で小狼はお酒に強いというイメージが出来上がっていたから。


「小狼くんでも酔っ払う事があるんだ」


そう思うと何だか嬉しくて、自然と笑みが零れる。


「はい小狼くん、お水」

「ん…」


差し出された水を受け取ると、小狼は一気に口内へ流し込んだ。
ゴクリと喉がなって唇の端から一筋零れ落ちる。

とろんとした瞳と目が合えば、捕われた兎のようにさくらの身体が強張った。

いつもの小狼にはない色気がさくらの鼓動を早くする。


「あ、の…小狼くん、少し休んだら?」

「あぁ、そうだな…」


震えそうになる声を必死に抑えて、さくらはソファの上に置いてあるタオルケットに手を伸ばした。

その瞬間腕を強く掴まれてそのまま引き寄せられる。


「きゃ…っ」


そのあまりの力強さにさくらの身体は大きくバランスを崩すと、小狼の上へ倒れ込むようにして転がった。


「もぅ、小狼く…んっ」


顔を上げた瞬間に唇を塞がれる。
同時にアルコールの香りが鼻を通り抜けた。
さくらは一瞬何が起こったのか分からず、間近にある小狼の顔を呆然と見つめた。


(あ、小狼くんの睫毛ってやっぱり長いな…)


そんな事を呑気に考えている内に口付けはどんどん深くなり、いつの間にか小狼の柔らかい舌がさくらの咥内を動き回っていた。


「んんっ、待っ…小狼く…っ」


ハッと気が付いてさくらは小狼の胸を押して身体を起こそうと試みる。
けれど小狼の腕がしっかりと頭と腰を支えているので思うように動けない。

ようやく離された唇はすぐにさくらの首筋へ移動して紅い花を咲かせた。


「あっ、ちょっと待って…小狼くんっ」

「さくら…」


さくらの制止も聞かず小狼はどんどん唇を進めていく。
初めて見る強引さにさくらは顔を真っ赤に染めて小狼の胸をポカポカと叩いた。


「ま、まま待ってってばぁっ」


そして腰に添えられていた手が上着の中へ入った所でピタリと動きが止まった。
ぎゅっと目を閉じて身体を強張らせていたさくらは突然動かなくなった小狼の手に、思わず目を開ける。


「…ほぇ」


見れば小狼の目は閉じられ、規則的な息遣いが耳に届いた。


「寝て、る…?」


確かめるように顔を覗き込んでも小狼が目を開ける気配はない。

さくらは脱力したように大きく息を吐くと、小狼を起こさないようにそっと起き上がった。
そしてタオルケットを手に取って広げると、それを小狼にかけてやる。

さっきまでの勢いは何処へやら、何事もなかったかのように静かな寝息を立てる小狼に、さくらは思わず笑みを零した。


「もぅ…」


けれどこんな無防備な姿を見せてくれるのは自分だけなのだと思うと、さくらは嬉しくて仕方がなかった。
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