さくらと星の夢

□気持ちの置き場所
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小狼は泣きじゃくるさくらの瞳にそっと口付けて、そのまま抱きしめた。


「‥ごめん、ごめん…さくら」


自分が情けなくて仕方がなかった。
二度と泣かせまいと誓ってさくらの元へ帰って来たのに、今さくらを泣かせているのは他の誰でもない、小狼自身なのだ。


「…ごめん、怖がらせて」


小狼が呟くように言うと、さくらは胸に顔を埋めたまま、


「‥ごめんなさい」


と、続けた。
その言葉に小狼は、さくらから身体を離すと、ふるふると首を振って、その顔を覗き込む。


「さくらが悪いんじゃないんだ…」

「でも…っ」


小狼の言葉を遮ろうとするさくらの唇に、人差し指でそっと触れて、小狼は口を開いた。




「…やきもち、妬いてた」
「ぇ…?」


戸惑って見えるさくらの瞳には、先程まで流れていた涙はなく、少し潤んだ瞳がくるくると動いて小狼を追い掛ける。


「…あいつとさくらに、やきもち妬いてたんだ」

「‥ほんとに?」


その問いに小狼が黙って頷くと、さくらはしばらく黙ったあと不意に頬を染め、ふわりと微笑んだ。




「なんだか、嬉しいな…」

「さくら…?」


思いがけないさくらの言葉に、小狼は驚きを隠せなかった。
けれどそんな小狼を気にした様子もなく、さくらは続ける。


「前に小狼くんが言ってた事、分かる気がする」


それからさくらは小狼を見つめて、


「やきもちを妬くって事はそれだけわたしを好きでいてくれてるって事だもんね」


そう言って笑うさくらの笑顔は、小狼の中にあった嫌な気持ちをきれいに消し去ってしまう程、温かかった。

そして小狼は堪らず、もう一度さくらの身体を抱きしめて、呟く。


「…ありがとう、さくら」


その言葉に応えるように、さくらは少し震える小狼の背中にそっと腕を回した。



「…これからは少し控えるね、電話」

「さくら‥」


さくらは困ったように笑い、


「だって、逆の立場だったらわたしも嫌だもん」

「そうか…」


小狼は苦笑いを浮かべて、さくらの頭を優しく撫でた。

そしてさくらの瞳が閉じられると、それが合図になるように自然と小狼の唇が重なった…――――。










…心の奥で、あんなにしつこく燻っていた感情は、おまえのあの笑顔と一言であっという間に消え去った。

信じてる、なんてカッコつけた事言って、本当は不安で堪らなかったのかも知れないな‥。
おまえが、遠くへ行ってしまうんじゃないかって。

けど、おまえは笑ってくれた。
こんなおれの詰まらない独占欲を、嬉しいと言ってくれた。

おまえのその何気ない一言におれがどれほど救われたか、分かるか?

…きっとこの先、また同じような事があるかも知れない。
けど、やっぱりおまえは変わらないあの笑顔で、言ってくれるんだろうな。

そう信じられるから、これからもおまえの傍にいたいと思うんだ…――――。








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