さくらと星の夢

□好きとはちみつ
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「‥小狼くん、まだ…居てくれる?」


突然さくらにそう聞かれて、小狼は布団を掛ける手を止めた。
見ればその顔は不安げな色を浮かべている。

小狼はクスリと笑い、さくらの頭を優しく撫でながら、


「ちゃんといるから、安心して寝ろ」

「…うん、ありがと」


さくらはホッと息をついて、ゆっくりと目を閉じた。小狼はその姿を愛おしそうに見つめ、そっと頬を撫でる。


「小狼くんの手、冷たい…」

「あ、悪い…っ」


小狼が慌てて手を退けようとすると、不意にさくらの手が重なった。


「冷たくて、気持ちいい‥」


その言葉に小狼は安堵すると、


「そうか」


と、一言答えて笑った。





その内、さくらの口許から規則的な寝息が聞こえ始めると、小狼はもう一度頭をそっと撫でて、小さな唇に軽く口付けた…――。


「…おやすみ」










「さくら、帰ってるのか?」


突然声が聞こえて、ノックの音と同時に顔を出したのは桃矢だった。
部屋の中にいた小狼と目が合えば、二人の表情が途端に険しくなる。
けれどもベッドに寝ているさくらに気付いて、桃矢は小狼に問い掛けた。


「どうしたんだ?こいつ」

「風邪だな。熱があるから薬を飲ませてさっき寝付いたところだ」


桃矢の問い掛けに小狼も渋々答える。


「朝は何ともなかったのに‥」


桃矢はため息をついて視線を落とす。
そして目に止まったのは一つのマグカップ。
桃矢はそれをしばらく見つめて、小狼に視線を移した。


「‥そりゃ悪かったな、後はおれがやるから」

「いや、さくらの目が覚めるまでいさせてもらう」


間髪入れずに返って来たその言葉に、桃矢は多少の苛立ちを覚えながら、


「‥好きにしろ」


そう一言吐き捨てて、部屋を後にした。








自室に戻りながら、桃矢の頭に浮かんで来るのはあのマグカップ。
その中身がはちみつミルクだということに、桃矢はもちろん気が付いていた。
さくらが風邪を引いた時、必ず飲みたがるのを桃矢は良く知っていたからだ。
そしてそれをさくらに与えるのも桃矢の仕事だった。けれど…――。



「もう、おれの役目じゃないってことか…」



その呟きは消え入りそうな程小さく、けれども静かな廊下に、何処か寂しげに響いたのだった…――――。








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