さくらと星の夢
□いちごけーき
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「よっ!知世♪」
さくらが背負っていたリュックからひょこっと顔を出したケロに、知世は少し驚いたように笑った。
「まぁ、ケロちゃんもご一緒だったんですね」
「ぅ、うん。ごめんね知世ちゃん、ケロちゃんにケーキの話したらどうしてもついて行くってきかなくて…」
さくらの言葉に知世はふわりと微笑んだまま、
「ケーキ?ケロちゃんらしいですわね」
「あはは…」
さくらは渇いた笑いを返しながら、玄関先だからとケロをリュックの中へ押し込んだ。
「むぎゅっ」
そしてケロが文句を言い出す前に、チャックの口を閉じたのだった――。
「今日は新しいバトルコスチュームの試着をお願いしたくてお呼びしたんです」
そう言って知世の部屋に通されると、その圧倒的な広さにいつもの事ながらため息が出てしまう。
それは何度ここへ来ても慣れない事だった。
「あ、知世ちゃん。さっきもちょっと話したんだけど実は昨日ね、お父さんと苺ケーキ作ったの。知世ちゃんと一緒に食べようと思って」
と、さくらは手に持っていた大きめの箱をテーブルにそっと置いた。
「まぁ、ありがとうございます。では、わたしはお茶の用意をお願いしてきますね」
知世は嬉しそうに笑うと、そそくさと部屋を後にする。
すると、ドアが閉まるのと同時にリュックの中から苦しそうな声がして、さくらは慌ててチャックの口を開いた。
中にいたケロは小さな肩を揺らしながら、荒い呼吸を繰り返している。
「し、死ぬか思た…っ」
「ご‥ごめんねケロちゃん」
と、さくらは申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせて見せた。
ケロはそれを横目で見遣りながらニヤリと笑うと、
「‥ふっ、ケーキの為なら例え火の中水の中や」
「ほぇ…」
その言葉に流石のさくらも呆れるしかなく、思わずため息が零れてしまう。
「で‥でもでも、ケーキを食べるのは知世ちゃんのご用が終わってからだからね」
「なんやてっ!?」
一番の楽しみをおあずけにされたケロは、精一杯抗議するも呆気なく撃沈し、頬を膨らませながらソファーの上へ転がった―――。