さくらと星の夢
□僕だけのもの
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「おはよう…」
教室に入って来たさくらの異変に、最初に気付いたのは知世だった。
「…さくらちゃん、何かあったんですか?元気がありませんわ」
席に着いたさくらに知世は心配そうに声をかけた。
「ぅん…ちょっとね」
さくらは取り敢えず笑顔で答えてはみたものの、すぐにまたしゅんと表情を曇らせてしまった。
知世はそんなさくらを見つめながら、その原因を探った。
始めに浮かんできたのはさくらの一番大切な恋人、李小狼だ。
正直さくらがここまで落ち込んでしまう原因と言ったら、小狼以外思い付かないのだが…。
(李くんとは三日ほど前、お二人で仲良く下校してらっしゃいましたし…。李くんじゃないとすると、ご家族の誰かでしょうか…)
知世が考え込んでいると、不意にさくらが口を開いた。
「あのね、知世ちゃん。相談があるんだけど…」
「はい?」
そう言って顔を上げたさくらの表情が『良い話』ではないと語っていた…―。
「え!告白されたぁ!?」
千春は眼を丸くしてそう叫んだ。
―…昼休み。いつものようにさくら、知世、千春、利佳、奈緒子の五人は校庭の芝生の上でお弁当を広げていた。
これは中学生になっても変わらない事だった。
「でもその子、勇気あるよねぇ。李くんと付き合ってる事知らないのかなぁ」
奈緒子がおっとりと口を開いて、玉子焼きを頬張る。
「うん、その子他校の人みたいで…」
「他校の人がどうしてさくらちゃんのこと知ってるのかしら」
利佳はお弁当を食べる手を休め、心配そうに呟いた。
「…あっ!もしかしてこの前のチアリーディング部の試合の時じゃ…っ」
千春が思い出したように声を上げた。
「そうなんですの?さくらちゃん」
知世が確認すると、さくらはゆっくりと頷いた。
「貰った手紙に書いてあったの…」
「それで、返事は…?」
千春が聞くと、他のみんなの視線がさくらに集まった。
さくらはやはり表情を曇らせたまま、
「…好きな人がいるって言って、ごめんなさいって言ったんだけど」
「けど?」
知世が先を促す。
「その時は分かりましたって言って終わったんだけど、その後も家に手紙が来たり、何処でアドレスを知ったのかメールも送られて来て…」
「えぇ!そんなのストーカーじゃない!」
千春は思わず声を荒げる。さくらの元気がなかった原因はこれだったんだと、知世は納得したように頷いた。
「李くんにはこのこと、おっしゃってないんですの??」
「うん、相談しようと思ったんだけど小狼くん今体育祭の実行委員やってるから忙しくてなかなか連絡が取れなくて…」
さくらの表情は曇るばかりだ。
他の四人は顔を見合わせて、掛ける言葉を探っていた。
すると突然千春が立ち上がり、
「よし!じゃあ私たちでそのストーカーを捕まえよう!」
「えぇ!千春ちゃん!?」
さくらは眼を丸くして千春を見上げている。
他の三人も呆気に取られたように、口をパクパクと動かしていた。
それでも千春は構わず続ける。
「さくらちゃんが一人で帰ってたらもしかしたら姿を表すかも知れないでしょ?そこをみんなで一斉に飛び掛かるの!どぅ!?」
「どぅって…」
と、千春が熱く語ったところで、その背後から声が聞こえた。
「悪いけど、賛成は出来ないな」
みんなが振り向くと、その人物の姿にさくらが最初に声を上げた。
「しゃ…小狼くん!?」
小狼はさくらを見ると、静かに言った。
「さくら、放課後教室まで迎えに行くから待ってろ」
「え…」
さくらが答えに戸惑っていると、小狼はもう一度念を押した。
「いいな?」
「は、はい…っ」
その返事を聞くと、小狼は何も言わずに校舎へ戻っていった。
「あれは、怒ってたよねぇ…」
奈緒子がポツリと呟いた。
「っ!?な、奈緒子ちゃん…」
さくらは困ったように笑う。
「でもこれで取り敢えずは安心ね」
「そうですわね」
利佳と知世は安堵の息をついた…―――。