さくらと星の夢
□風に乗って
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「さっきからずぅっと何見てるんや?」
部屋の窓辺に頬杖をついて、外を眺める少女に黄色いぬいぐるみが話し掛けた。
「…ん〜?今日はお天気もいいし、ぽかぽかして気持ちいいなぁと思って」
視線は外へ向いたまま、少女はふわりと言う。
「そら、もぅ春やさかいなぁ」
ぬいぐるみも同じように少女の視線を追って、外を眺める。
まだ淡い青色をした空は、冬の気配を少し残していて、けれども少女の髪を撫でる風は緩やかに暖かく、顔を出したばかりの春の香りを感じさせていた。
―…ひらり、ひらり
少女の視界の端に、一枚の花びらが舞い込んだ。
少女は無意識に手を伸ばす。するとその花びらは吸い込まれるように少女の手の平の上に舞い降りた。
「これ、桜の花びらだ…でもどこから??」
そして花びらに触れた瞬間、突然少女を包み込むように風が舞い上がり、少女は驚いて眼を閉じる。
やわらかな風は少女の肩を、首筋を、頬を、そして唇をゆるりと撫でていく。
―…少女はこの風を知っていた。
海の向こうにいる、少女のいちばん大切な少年。
次々に浮かんでくる少年の笑顔。そしてやわらかな風と一緒に流れ込んでくる、少年の自分を想ってくれる真っ直ぐな気持ち…。
少女は舞い落ちてきた桜の花びらを優しく包み込んで、問いかける。
「あなたは、海の向こうから来たの…??」
何も言わない花びらの代わりに答えるのは、少女を纏う暖かな少年の風。
「どないしたんや?大丈夫か?」
少女の様子にぬいぐるみが心配そうに声を掛ける。
「うん、なんでもないよ。大丈夫」
少女はそう言って、笑った。その笑顔に安心したぬいぐるみは背中の羽をぱたぱたさせて窓辺を離れていく。
…少女はもう一度外を見つめて、手の中の花びらにそっと口付けた…――。
終