さくらと星の夢

□なにが好き?
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「小…狼く…っ」

「さくら…!」


さくらの苦しげな声に小狼は自分を責めた。
もしあの時変に悩まずにちゃんと答えていたら、さくらがこんなに苦しむことはなかったのに。


「さくら…、おれが…っ、絶対助ける…!」

「…小狼くんっ」


小狼は糸が食い込むのにも構わず手に一枚の札を握る。
そしてそれを自分に絡みつく糸に当てるとギュッと唇を噛みしめた。


「『火神…招来っっ!』」


瞬間、札から放たれた炎が小狼ごと巻き込んで大きく燃える。


「小狼くんっ!!」


さくらは思わず叫んだ。

やがて炎は小狼に巻きつく糸を燃やし尽くすと勢いを弱めていく。
小狼は自由になった身体で小さな火の粉を払い退けた。
その身体は所々傷を負っている。
けれど小狼はそんなことには気にも留めず、すぐにさくらの糸を剣で切り裂いた。
糸がバラバラと散らばり、床に広がった。
さくらはその場に倒れ込んで呼吸を荒げる。


「はぁ…っ、はぁ…」

「さくら!大丈夫か!?」


小狼はさくらの身体を支えるようにして、その顔を覗き込んだ。


「大丈夫…、助けてくれてありがとう‥小狼くん」

「さくら…」


そう言って小さく笑うさくらを、小狼はそっと抱きしめる。


「良かった…」

「小狼くん‥」


トクン、トクンと少し早い鼓動が、小狼の胸に触れたさくらの頬に伝わった。


「ごめん…、おれがあの時ちゃんと答えていればこんなことには…っ」


自分を責めるような小狼の言葉に、さくらはフルフルと首を振る。


「小狼くんのせいじゃないよ?わたしも油断してたから…」

「さくら…」

「誰にだって、言いたくないことはあるもん」


それにね、とさくらは続ける。


「それに色んな質問があってね、なんだか小狼くんのこと前よりずっと分かった気がするの」

「…………っ」


小狼は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
さくらはちゃんと答えたのに、自分はほんとの気持ちに嘘をついて、さくらをこんな目に合わせてしまった。

それでいいはずがない。


「さくら、おれがホントに好きなのは…」

「え…?」

「好きなのは………」










長い長い沈黙だった。
そしてそれを破ったのは小狼でも、さくらでもなかった。


「あれ?さくらちゃんに李くん!何してるの?こんな所で」


突然のその声に二人は驚いて身体を震わせる。
そしてその声を辿れば、ユニフォーム姿の千春が立っていた。


「千春ちゃん!?」

「あ、もしかしてお邪魔だった?」


「え…」


千春の言葉に二人は顔を見合わせる。
そして改めて小狼がさくらの手を握っている事に気がついた。


「あ…っ、悪いっ!」


小狼は慌てて手を引っ込める。
さくらも照れくさかったのか頬を真っ赤に染めて俯いた。


「う、ううん!それより傷大丈夫?」

「あ、あぁ…、大丈夫だ」


小狼の心臓はドクンドクンと脈打っている。
思わず冷や汗が頬を伝った。

あの時、千春が来なければさくらに自分の気持ちを伝えていたと思うと、小狼は心は落ち着かなかった。


そんな二人を見て千春は首を傾げる。


「…??どうしたの?」

「ううん!なんでもないよ!!」


いつの間にか、クロウの気配は消えていた…――――――。




廊下の影から一部始終を見守っていたエリオルは苦笑いを浮かべた。
そして僅かに目を細めて小狼を見つめる。


「もう少しだったのに、残念でしたね。李くん…」


低く響いた声は、本人に届くことなく宙を彷徨った…――――。










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