さくらと星の夢

□心の言葉
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「…―ら」


…――誰?


「…さくら」


聞き覚えのある声に瞳を開けると、そこには朝と同じように心配そうな顔を浮かべる小狼くんの姿があった。


「小…狼くん?」

「ずっと眠ってたのか?」

「え…?」


そう言われて枕もとの時計に目をやると、針は既に七時を指している。


「…え、夜??」

「あぁ、さっき帰ってきたんだ。ほんとに大丈夫か?」


まさか朝からずっと眠ってたなんて。
わたしは慌てて起き上がる。


「大丈夫。…小狼くん、今日は早かったんだね」

「早く帰れるようにするって言っただろ?心配だったんだ」


わたしは「ありがとう」とお礼を言って、ベッドから抜け出す。
今日は、約束守ってくれたんだ。
嬉しいけど、やっぱり申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
きっと、すごく頑張ってお仕事を調整してくれたんだろうから…。


「あのね、小狼くん。話したいことがあるの」


今日は時間が沢山あるから、きっとお話出来るよね。
そう思って、わたしは小狼くんに切り出した。


「ちょっと待て、先に風呂入って来る。後で聞くから」


でも小狼くんはそう言って、部屋を出ようとする。

どうして?

わたし、小狼くんに話したいことが沢山あるんだよ?

とても大切なこと、聞いて欲しいのに…。


「…やだ」

「え?」


部屋を出ようとする小狼くんの背中に、拒否の一言を投げかけた。
小狼くんも驚いて振り返る。


「今、聞いて欲しいの…」

「…さくら」

「…どうしていつも、わたしの言葉聞いてくれないの?」


だめだ…。
一度溢れ始めた言葉を、止めることが出来ない。


「ほんの少しでいいの…、少しだけ耳を傾けてくれたら言えるから」


言葉と一緒に、涙が頬を伝っていく。
小狼くんは何も言わずに、黙ってわたしの話を聞いていた。


「お願い…」


ほんとはね、こんなこと言うつもりじゃなかったの。
だって小狼くんを困らせたくないから。
でも、我慢して我慢して、いっぱい我慢したら、一気に溢れて…。

わたしがそれ以上何も言わずにいると、突然視界が塞がって思わず顔を上げる。
するとわたしの大好きな甘い香りが鼻を通り抜けて、初めて小狼くんに抱き締められてるんだと気が付いた。


「あの…小狼くん?」

「ごめんな、さくら…」


耳元で小さく聞こえた声は少し震えていて。
小狼くんは何度も何度も「ごめん」と繰り返した。


「忙しさの所為にして、ちゃんとさくらに向き合ってなかった…」

「小狼くん…」


小狼くんはわたしの涙を指で拭いながら、申し訳なさそうに笑った。

あ、小狼くんの笑顔久しぶりに見る。

頬に触れる指もあったかくて、すごく安心する。


「わたし、寂しかったの。最近、ちゃんと小狼くんの目を見てお話出来てなかったから…」

「あぁ…、そうだな」


わたしを腕に抱いたまま、小狼くんは優しく相槌を打ってくれた。
ゆっくりお話をすることがこんなに嬉しいことだったなんて、思わなかった。


「これからはもっと時間を取れるように調整するよ」

「小狼くん…、ありがとう」


わたしが笑うと、小狼くんもそれに答えるように笑ってくれた。
わたし、小狼くんの笑顔を見るのは久しぶりだったけど、わたし自身が笑うことも久しぶりだったんだって、今気付いた。


「それで、さくらが昨日から話したがってたことってなんだ?」


小狼くんがそう聞いてくれて、わたしは嬉しくて満面の笑みを浮かべた。
やっと、小狼くんに話せるんだ。


「あのね、小狼くん…」


わたしは小狼くんの耳元で小さく囁いた。


「え…、ほんとに?」


わたしの言葉を聞いて、小狼くんは驚いたように聞き返す。
わたしが小さく頷くと、小狼くんは頬を紅潮させてもう一度抱き締めてくれた。


「ありがとう、さくら…」


それから小狼くんは、わたしのお腹にそっと触れた…――――――。











ずっと、あなたに伝えたかったの。

わたしに宿った、二人の新しい命のことを…。

でもあなたは中々耳を傾けてはくれなくて、

苦しくて、涙が出たけど…。

ずっと心の奥に溜め込んでいたもやもやを、

あなたにぶつけたら、

あなたはそれを全て受け止めてくれた。

そして、笑ってくれた。
それだけで、今までの不安や寂しさが嘘のように消えて去って…。

ね、これからもこんな風に、

なんでも言い合える夫婦でいたいな。

ううん、これからは家族三人でずっと…。










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