さくらと星の夢
□キミが一番
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【5位】小狼×夢(ドリーム)
「ん〜、いい気持ち」
青々と茂る芝生の上に、二人並んで寝転んだ。
大きく息を吸い込むと、若い緑の香りが鼻を通り抜ける。
「やっぱり来て良かったね、小狼くん」
「あぁ…」
少女の言葉に小狼は短く返事を返した。
――…さわさわと緩やかな風が二人を包み込む。
しばらくして小狼は起き上がり、何も言わなくなった少女の顔をじっと見つめた。
やがてその視線に気付いた少女も、小狼の方へ振り返る。
「何かついてる?わたしの顔」
そう言って少女が笑うと、小狼はフルフルと首を振った。
「ホントに良かったのか?おれで」
「え…?」
思いがけない小狼の言葉に、少女は目をパチクリさせて驚いた。
「どうして、そんなこと聞くの?」
「いや…」
口篭る小狼に少女も起き上がって、その顔を覗き込む。
一気に近づいた二人の距離に、小狼の心拍数が跳ね上がった。
「小狼くんは、わたしが他の人と付き合った方が良かった?」
「そんなこと…っ」
ない…?と少女が続けると、小狼は黙ったまましっかりと頷いた。
すると少女はニコリと笑って、小狼を見る。
「わたしは、小狼くんのことが好きだから、小狼くんの傍にいるんだよ?」
「…………」
「小狼くんは、違う?」
少女が小さく首を傾げると、小狼の頬が僅かに染まった。
「…いや、おれも同じだ。おまえが好きだから、おまえの傍にいたいと思う」
それから少女は小狼の手をそっと握る。
「…それだけで、十分だよ」
「あぁ、そうだな」
握り返した小狼の手が微かに震えて、二人の唇がゆっくりと重なった…――――。
「…あ、そういえば」
「‥どうした?」
離された少女の唇から漏れた声は、先程までの雰囲気をかき消す程に軽やかで。
小狼も呆気に取られたように、少女を見る。
「小狼くん、まだ一度もわたしを名前で呼んでくれたことないね」
「あ…っ、それは…」
小狼はしまったとばかりに顔を背けた。
少女は負けじとその視線を追いかけて、小狼の瞳を捕らえる。
「呼んでくれる?」
「いや…っ、その…」
アタフタと慌てる小狼を見つめて、少女は続けた。
「恥ずかしいから呼ばないの?」
「それも、ある…」
「も?」
ズイッと顔を近づける少女に、小狼は観念したように両手を挙げる。
「タイミングが…」
「なんだ、そんなことだったんだ」
少女はきょとんと目を見開いて、やがて笑った。
「じゃあ、今から呼ぶことにすればいいよ」
「え!?今から…?」
そう、と少女は頷いて小狼を促す。
「…………」
小狼の言葉を待つように、少女は黙った。
「…………」
やがて沈黙に耐えられなくなった小狼は、小さく深呼吸をして少女を見つめる。
ぶつかった瞳に、ドクンと心臓が脈打った。
「―――…」
「え…?」
耳を澄まさなければ聞こえない程の小さな声は、皮肉にも吹き抜ける風がさらってしまい、少女の耳には届かない。
「もう一度、言って?」
そう言いながら笑う少女の身体を、小狼はそっと抱き寄せた。
そして少女の耳元に唇を近付けて、もう一度囁く。
「―――…」
今度は少女にしか聞こえない程、小さく…―――。
「うん、ありがとう」
瞳を合わせた二人の口元には、自然と笑みが零れた。
それから何度も呼んだのは、愛しい愛しい、キミの名前…――――。
fin