さくらと星の夢

□雨の日の過ごし方
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さくらが目を覚ましたのは、小狼がリビングを出てから三十分ほど経ってからだった。


「‥ん」


寝ぼけ眼に顔を上げて辺りを見渡すと、しんとした部屋に聞こえるのは雨音だけで。


「あれ?わたしいつの間に寝ちゃったんだろう…」


そして肩に掛けられたタオルケットを見て、初めて部屋の異変に気が付く。


「‥小狼くん?」


もう一度部屋を見渡してリビングとキッチンに小狼の姿が無いことを確認すると、さくらはようやく立ち上がった。


「どこ行ったんだろう…」


リビングを出て玄関へ向かうと、靴はここへ帰って来た時のままきちんと並べられている。


「外には出てないってこと…?」


さくらは首を傾げながら部屋を一つ一つ覗いて歩いた。


「ここもいない‥」


だんだんとさくらの顔に焦りが浮かび始める。
何かあったのではないかと考え始めると、思考は悪い方へと進んでいく。

そして最後の部屋である寝室のドアをそっと開けた。
ゆっくりと部屋の中を歩いて回る。


「小狼くん、いる?」


さくらが声を掛けても返事はない。

けれどため息と一緒にさくらが俯いた時、小狼の脚が視界に入った。
さくらは急いでベッドの脇へ回る。


「ほぇ…」


するとそこには、小狼がベッドに凭れて眠っていた。
随分と深く眠っているのか、さくらが近寄っても一向に起きる気配はない。


「小狼くん、どうしてこんなところで…?」


眠る小狼に小さく問い掛けて、さくらはクスッと笑った。
そしてリビングからタオルケットを持って来ると、それを小狼にそっと掛けた。


「よく寝てる…」


さくらも小狼の隣に座って、その寝顔を見つめる。


「あ、ここでも聞こえる…」


さくらはベッドの横にある窓を見上げた。
窓に打ち付ける雨音が静かに聞こえる。


「小狼くんもこれで眠くなっちゃったのかな…」


さくらはまた小さく笑って、小狼の肩へ頭を預けた。
窓の外から聞こえる雨音と、小狼の規則的な寝息がさくらを再び眠りへと誘う。


「小狼くん…」


そしていつしかさくらも、眠り込んだ…―――――。








「‥んん」


次に先に目を覚ましたのは小狼だった。


「‥……」


小狼は少し考えて、すぐに自分が眠ってしまったことに気が付いた。
そして飛び起きようとした瞬間、肩に寄り掛っているさくらを見つけて思わず身体を震わせる。


「な…っ!なんでさくらがここに…?」


混乱した頭で考えて、ようやく自分を探しに来て一緒に寝てしまったんだろうという答えに行き着いた。


「はぁ〜…」


小狼は深いため息をついて、さくらを見つめる。
そしてその頬をそっと撫でて、苦笑いを浮かべた。


「ビックリさせられたのはおれの方か…」

「‥ん」


頬に触れられた手に、さくらは身体を捩るとゆっくりと目を開けた。


「あ、小狼くん…」

「起きたか」


顔を上げたさくらの瞳はまだ眠そうにとろんとしている。


「わたし、また寝ちゃった」

「‥雨、だからな」

「…そうなの?」

「多分…」


小狼は立ち上がってさくらをベッドへ座らせると、タオルケットを肩からふわりと掛けた。


「そういえば、わたしまだ問題終わってなかった!」


そう言って立ち上がろうとするさくらの腕を掴んで、もう一度座らせる。


「今日はもういいよ」

「ほぇ‥?」

「…まだ眠い」


小狼は言いながら、ベッドに寝転んだ。
さくらは小狼の顔を覗き込んで首を傾げる。


「雨だから?」

「‥かもな」


そうなんだ、と頷くさくらを手招きして隣に呼び寄せた。


「たまにはいいだろ、こんな日があっても」

「‥うん」


それから二人は降り止まない雨音を遠くで聞きながら、目を閉じる。


雨の日だって悪くない…。
さくらはそう思いながら、小狼の袖をぎゅっと握った――――――。







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