さくらと星の夢
□雨の日の過ごし方
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「お邪魔しまーす」
さくらは小狼の家のリビングに通されると、部屋をぐるりと見渡した。
そして相変わらず綺麗に整頓された部屋に、思わずため息が漏れる。
「いつ来ても綺麗にしてるんだね」
「‥普通だろ」
さくらの言葉に小狼は短く答えて、キッチンへ向かった。
「適当に座ってろ、紅茶淹れるから」
「うん、ありがとう」
キッチンから聞こえた声に、さくらは頷いてソファーへ腰掛ける。
そして鞄から勉強道具を取り出して、テーブルへ並べ始めた。
やがて紅茶の入ったマグカップを両手に持って小狼が戻って来ると、さくらはそれを笑顔で受け取る。
「ありがとう」
小狼もソファーへ座って一息ついた。
「それで、どこの問題が分からないって?」
「あ、うん。ここなんだけど…」
さくらは数学の教科書をパラパラと捲って小狼に見せる。
小狼もそれに一通り目を通して小さく頷くと、「いいか?」と身を乗り出した。
それと同時に近づく二人の距離に、さくらは思わず頬を染めた。
「どうした?」
「え…と、なんだか恥ずかしいなって‥」
そう言ってさくらが俯くと、小狼はぷっと吹き出してさくらを見る。
「…今更?」
「はぅ‥だって〜」
あたふたと慌てるさくらの頭ポンポンと撫でて、
「ほら、早くやらないと終わらないぞ」
「う、うん!」
それからさくらは、分からないところを小狼に教えてもらい、ようやく要領を掴めた頃、小狼は教科書をパタンと閉じた。
「よし、じゃあ紅茶淹れ直してくるから、その間にこの問題を解いてみろ。さっきの公式を応用すれば難しくないから」
「うん、やってみる」
さくらが頷くのを確認して、小狼は再びマグカップを手にキッチンへ向かった。
一人残されたさくらは、意気込んで問題を解き始める。
「えっと‥、ここに公式を当てはめるんだよね…」
外では未だ降り止まない雨が窓ガラスを濡らしていた。
しとしとと部屋に響く雨音は、さくらの耳にも届いていて。
さくらはふと窓の外を見上げた。
「雨、まだ降ってるんだ…」
規則的に聞こえる雨音は、さくらの眠気を誘うには十分で、
「ふぁ〜…」
大きな欠伸を一つ吐き出すと、さくらはそのままテーブルへ突っ伏した。
「‥眠い」
小さく呟いた声は、誰に届くでもなく静かに空を漂った。
「さくら、出来たか?」
小狼がキッチンから戻って、声を掛けるが返事はない。
代わりに聞こえてくるのは、さくらの規則的な寝息だけだった。
「‥寝たのか」
小狼は小さく溜息を零すと、さくらの顔を覗き込む。
その幸せそうな寝顔に、自然と笑みが零れた。
「ま、こんな天気じゃ眠くもなるか…」
それから小狼はさくらにタオルケットを掛けてやり、髪をさらりと梳いた。
一瞬擽ったそうにさくらの口元が上がる。
それを見つめて、小狼はふと考えた。
もしさくらが目を覚ました時、自分がいなかったらどうするだろうと…。
芽生えた好奇心はみるみる内に膨らんで、小狼の心を動かした。
「よし…」
小狼は小さく呟いて、リビングを出た――――――。