さくらと星の夢

□大好きなきみだから
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男が完全に立ち去ってから、さくらは小狼の腕を掴んだ。
不安そうな瞳を見せるさくらを抱き寄せて、そっと頭を撫でる。


「大丈夫か?ごめん、遅れて…」

「小…狼くん‥っ」


小狼の温もりに触れて、さくらの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。


「怖か…っ」

「ごめん、もう大丈夫だから」


小狼は泣きじゃくるさくらを宥めるように、優しく抱き締めた――――――。













「落ち着いたか?」

「うん、ありがとう…」


さくらは小狼が貸してくれたハンカチで涙を拭った。


「ごめんな、まさか寝坊するなんて思ってなくて…」

「ほんとにもう大丈夫だから、気にしないで?」


俯く小狼にさくらは笑顔を見せる。


「おれが遅刻した時に限ってこんなことになるなんてな、だから嫌だったんだ…」

「ほぇ??」


首を傾げるさくらの顔を覗き込んで、小狼は続ける。


「これからはもっと気をつけるよ、さくらを待たせないように」

「小狼くん…」


小狼の真っすぐな瞳に、さくらは思わず頬を赤らめた。
そして何かに気付いたように、徐に顔を上げる。


「‥小狼くんもしかして、わたしを一人にしないようにいつも早めに来てくれてたの?」


さくらの問いかけに、小狼はしまったとばかりに顔を背けた。
そんな様子に、さくらは小狼の方へ回り込んでその瞳を見上げる。

何も言わずに答えを待つさくらに、小狼は観念したように小さく頷いた。


「‥あぁ、さくらを一人にすると絶対ああいう輩が近付いてくると思ったからな」

「どうして??」


純粋なさくらの質問に、小狼は頭を抱える。
そういうことに関してのさくらの鈍さはぴか一である。
それはもちろん小狼も良く分かっていた。

チラリとさくらを見ると、きょとんと小狼を見つめている。
小狼ははぁ〜と溜息を一つ零して、さくらを引き寄せる。

この言葉を言うことが、恥ずかしいわけではない。

それでも少なからず抵抗があるのは、普段は使わない言葉だからなのか何なのか、今の小狼には分からなかった。
たださくらに自覚してもらうためにも、言わなければと思った。

小狼はさくらの耳元に顔を埋めて、囁く。



「…可愛いから」

「え…」



思いもしなかった小狼の言葉に、さくらの頬はみるみる紅潮していく。
それにつられるように、小狼の頬も赤みを帯び始める。

さくらは照れくさそうに笑って、小狼の手をぎゅっと握った。


「嬉しい、ありがとう小狼くん」

「あ、あぁ‥」


絡ませた指から伝わる温もりに、さくらは笑みを零す。


「小狼くんの手、あったかい…」

「‥さくら?」

「やっぱり、小狼くんに触れられるのが一番嬉しい」


言葉と一緒に溢れた満面の笑みは、小狼の心を擽るには十分で。


「そ…そうか」


小狼は熱の上がる頬を隠すように顔を背けると、繋いだ手を強く握り返した。


「小狼くん、顔赤いよ?大丈夫?」


さくらが小狼の視線を追いかけるようにその顔を覗き込む。
小狼は久しぶりに熱を持った頬を片手でパタパタと仰ぎながら、チラとさくらを見る。


「‥責任、取ってくれるのか?」

「ほぇ?」


小狼はさくらの耳元に唇を近づけると、少し低めに囁いた。



「今日は帰さない…って言ったら?」



その囁きに、今度はさくらの頬が真っ赤に染まった。
それを見て小狼は楽しそうに笑って、


「あぁ、赤くなった。これでお揃いだな」

「もぉ〜っ、小狼くんっ!」


さくらはからかわれたと気が付いて、先を歩き始めた小狼の背中をポカポカと叩いた。


「早く買い物行かないと日が暮れるぞ」

「分かってるもんっ」






それから二人は買い物を済ませると、小狼の家へと向かった。
そして小狼の言ったことがほんとになったかどうかは、また別のお話…――――。








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