さくらと星の夢
□大好きなきみだから
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小狼以外の男の人に触れられることがこんなにも嫌だなんてさくらは思ってもいなかった。
一度感じた嫌悪感は消えること無くさくらの身体中に広がっていく。
男はさくらの手を握ったまま、楽しそうに笑った。
「そんなに怖がらないでよ。ね、ホントに楽しいから行こうよ」
「ほんとに…やめて下さい‥っ」
いくらさくらが力を入れたところで、大の男の大人に敵うわけもなく、さくらの瞳に涙が滲む。
駅前で決して人が少ないわけではないが、慌ただしく歩く人達は気づいていないのか、知らない振りをしているのか誰も男を止める者はいなかった。
(小狼くん…っ、小狼くんっ)
さくらは心の中で小狼の名前を呼び続ける。
触れられた手からじわりと汗が滲み、更に不快感が増していく。
「大丈夫だって!怖くないから」
男はそう言うと、遂に掴んでいたさくらの腕を引っ張り立ち上がった。
その強い力にさくらの身体も浮き上がる。
そして半ば強引にさくらを連れて歩き始めた。
「いや…っ」
さくらは全身を使って踏んばる。
その抵抗に男は小さく舌打ちすると、腕を掴む手に力を込めた。
「‥痛っ」
「…大人しくしてくれないと、温厚なおれも怒っちゃうよ?」
言葉とは裏腹に、ニコリと笑う男の顔にさくらは背筋がゾクッと震えた。
「やだ…っ、小狼くんっ!」
さくらが目を瞑って小狼の名前を呼んだ瞬間、男の呻き声が聞こえて、すぐに目を開けた。
そこには男の腕を掴む小狼の姿があった。
さくらは思わず名前を呼ぶ。
「小狼くんっ!」
さくらは心からホッとしていた。
走って来たのか、小狼の額にはうっすらと汗が浮かび、ふわりと揺れる薄栗色の髪の毛はピタリと張り付いている。
「…汚ない手で触るな」
小狼は静かに言い放つ。
その声色からは怒りを感じさせた。
「なんだ、おまえ…」
男は突然現れた小狼に苛立ちを隠さない。
「痛い目にあいたくなかったら邪魔するなよ、おれは今この子と…っ」
男がそこまで言うと、小狼は腕を掴む手に強く力を込めた。
その瞬間、男の手からさくらの腕が離された。
さくらはすかさず小狼の後ろに移動する。
小狼も空いている片方の手で、さくらを庇うようにして覆った。
「‥っ」
その間も小狼は力を緩めずじっと男を見据える。
「…それはこっちの台詞だ。これ以上痛い目にあいたくなかったら、消えろ」
その言葉はさくらに聞こえないように、男の耳元で小さく呟く。
怒りの籠った低めの声が男の耳を通り抜けると、一筋の汗が頬を伝った。
「……分かった‥」
男が言うと、小狼はようやく手の力を緩めた。
そしてその場を立ち去るまで、小狼は黙って男を睨みつける。
「小狼くん…」