さくらと虹の夢

□未来に咲く花
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さくらの家までの帰り道、二人は特に会話をすることもなく歩いていた。

(やっぱり、ちゃんと話した方がいいのかな…)

さくらは考えながら、小狼を見上げる。
視線に気づいて、小狼は「どうした?」と首を傾げた。
その瞳はいつものように優しくて、さくらは胸の奥が熱くなるのを感じた。

(…やっぱり黙ってちゃダメだ、小狼くん、こんなに心配してくれてるのに…っ)

さくらは決意したように眼を開くと、立ち止まった。
すると、少し前を歩いていた小狼も立ち止まって振り返る。


「…さくら?」

「あのね、小狼くん。実は……っ」


と、息を吸い込んだ時、焦げくさい臭いが鼻を掠めて、さくらは思わず顔を顰めた。
それと同時に、小狼の表情も険しくなる。


「なに、この臭い…」

「…燃えてる」

「えっ!?」


小狼は「ここにいろっ」と、言い残して走り出した。

「小狼くんっ!!」

けれど、さくらもほっとけないとばかりにその後を追った。

そして公園を出ると、住宅街の一つの民家から炎が上がっているのが見えた。

「…火事っ!!」

炎は既に家全体に広がっており、その周りには野次馬が大勢集まっている。
その家の傍で女性が叫んでいるのが見えた。


「お願いっ!まだ中に子供が…っ!!」


女性の言葉を聞いて、さくらと小狼は思わず顔を見合わせる。


「消防車、まだ来ないのかなっ!?」

「あぁ‥っ」


その間も、炎は勢いを増し、家を焼き尽していく。
とても人が中に入れる状態ではなかった。

さくらはしばらく考えて、首に掛けてある鍵を取り出した。
それを見て、小狼はさくらの腕を掴む。


「待てっ、こんなところで魔法なんか使ったら誰に見られるか分からないぞっ!」


普段は人通りの少ないこの場所も、今は火事で大勢の野次馬が集まっていた。

「でもこのままじゃお家にいる子供が…っ」

さくらはフルフルと首を振って、

「出来ることがあるのに、見て見ぬ振りなんて出来ないよっ!」

そう言って小狼の手を振り切ると、公園の茂みへ走っていった。


「さくら…」




さくらは茂みに隠れて鍵を取り出すと、封印を解いた。


『星の力を秘めし鍵よ 真の姿を我の前に示せ 契約のもと さくらが命じる 封印解除-レリーズ-!!』


そして二枚のカードを取り出すと、空中へ投げる。


『風-ウィンディー-!水-ウォーティー-!!』


カードたちは勢いよく民家を目指し、飛び出した。
そして『水-ウォーティー-』が民家の頭上から大量の水を流すと、炎がみるみる内に弱まっていくのが分かった。

「え!?雨…??」

突然現れた水に、下で見ていた野次馬たちは茫然とその様子を見つめていた。
すると、水の勢いに押され、二階の窓から小さな子供が投げ出された。

「あっ!子供が…っ!」

下にいた誰もがもうダメだと眼を閉じた瞬間、『風-ウィンディー-』が子供を優しく包み、そっと地上へ降ろした。
そして子供は泣きながら母親の元へ駆け出し、周りでは思わず拍手が起こった。

周りの人間にはただの水と風が舞い上がったようにしか見えないだろうが、小狼は苦笑いを浮かべながらも、ホッと胸を撫で下ろした。


「小狼くんっ!!」


息を切らして走ってくるさくらに、小狼は小さく頷いた。
それを見て、さくらも安堵の表情を浮かべる。

「良かったぁ…」

「…あんまり無茶するな」

小狼が言うと、さくらは申し訳なさそうに頭を下げると、

「ごめんなさい…」

と、一言続けた。

そんなさくらの手を引いて小狼は歩き始める。


「けど…」

「ほぇ?」


さくらが背中越しに見上げると、


「さくらのお陰であの子は助かったんだ、良くやったな」


そう言って、小狼はふわりと笑った。
その笑顔にさくらも安心したように笑みを浮かべる。

そして、遠くからサイレンの音が聞こえて、やっと消防車が到着した。

小狼はそれを横目で見やりながら、


「一足遅かったな」


と、呟いたのだった。





「………………」


このとき、二人の後ろに人影があったことを、さくらと小狼は気がついていなかった―――――――。






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