さくらと星の夢

□お菓子といたずら
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「今日はまた大荷物だな」

玄関でさくらを迎えた小狼は思わずそう漏らした。

「あ、う…うん、ちょっとね…」

さくらは照れくさそうに笑って玄関のドアを閉める。
リビングに通されたさくらは、いつもより落ち着かない様子で、キョロキョロと目を泳がせた。
そして徐に小狼に問い掛ける。

「しゃ、小狼くんはハロウィンパーティーでどんな仮装するの?」

リビングから聞こえたさくらの声に、小狼はキッチンで紅茶を淹れながら「あぁ」と頷いた。

「あの好きな格好して校内を回るやつか…。まだ特に考えてない」

「そ、そうなんだ」

急に声の小さくなったさくらを不思議に思いながら、小狼は両手に持ったマグカップの一つをさくらに手渡した。

「ありがとう」

「どうしたんだ?突然」

小狼の問いかけにさくらは思わず身体を震わせて、フルフルと首を振った。

「う、ううん!なんでもないよ」

すると小狼はさくらの目の前に自分の顔をズイッと近づけて、

「そんな顔してなんでもないことはないだろう」

「ほ‥ほぇぇっ」

さくらは突然近づいた小狼の顔を直視出来ずに、顔を真っ赤にさせたまま反射的にフイッと顔を逸らした。
そんなさくらの様子に小狼は苦笑いを浮かべると、

「…さっき大道寺から連絡があった」

「えっ!なんて??」

「さくらが着るハロウィンの衣装を確認して下さいって」

その言葉にさくらは更に頬を染めて、ガックリと項垂れた。

「じゃ、全部知ってたんだ…?」

「あぁ、さくらがなんでそんなに慌ててるのかは分らなかったけど」

さくらは顔を上げると、少し困ったように笑って、

「なんか、照れくさくて…」

と、答えると小狼は小さく眉を寄せた。


「今更??」

「はぅ…」









「で、出来たよ…?」

リビングの扉の向こうから小さな声が聞こえて小狼は振り返る。
するとさくらは顔だけをひょこっと出して、恥ずかしそうに様子を覗っていた。

「おいで」

小狼が手招きをして呼び寄せると、さくらはおずおずと歩み出した。
そして全身の姿が目に入ると、小狼は思わずソファから立ち上がった。

「な…っ」

小狼が驚くのも無理は無い。
かぼちゃをテーマにしたらしいその衣装は、十月の終わりだというのに、必要以上の露出が目に付いた。
かぼちゃを形取ったふわりとした帽子はともかく、上着の胸元はゆったりと広く開き、キャミソールの隙間から覗く白い肌と、短すぎるスカートからすらりと伸びた脚は小狼にとって、とても直視出来るものではなく。
先ほどさくらが恥ずかしがったのがなんだか分かる気がした。

(ほんとにこんな格好して、校内を歩くのか…っ)


「どうかな??」


小狼はあまりの衝撃にバクバクと心臓を鳴らしながら、目を逸らした。
小学生の時にもこれでもかという程さくらのコスチューム姿は見てきたが、あの頃とは訳が違う。
身体付きはどんどん自分と離れていって、ラインはすっかり女性のものになってきている。
ましてや今の学校にさくらに好意を持っている人間がどれ程いるか見当も付かない。
そんな中、さくらをこんな格好で歩かせることが小狼にとってどんなに苦痛か、考えなくても分かっていた。

「小狼くん?どうしたの?」

返事のない小狼に、さくらは不安そうに声を掛けた。
その声にハッと我に返った小狼は曖昧に笑って、

「あ、あぁ‥いいんじゃ、ないか…?」

「ほんとっ!?」

小狼の言葉に、さくらの表情はぱぁっと明るくなって、嬉しそうに笑った。
そして、小狼の目の前に屈むと、


「Trick Or Treat!!」


「…え」

突然のさくらの台詞に、小狼はきょとんと眼を丸くした。

「って言って、校内を回るんだよ!この日だけはお菓子の持ち込みが許可されてるんだって」

「へぇ‥、『お菓子をくれないといたずらする』ってことか」

うんうんと頷いて、さくらは小狼を見上げる。
そんなさくらを黙って見下ろして、小狼はテーブルの上にある小さな包みを手渡した。

「…ほら」

「ほぇ?…あ、飴玉だぁ」

さくらは手渡された包みを開けて、嬉しそうに食べ始めた。
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