さくらと星の夢

□聖なる夜の小さな奇跡
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吐く息を白く染めながら、夜の町を少年は一人歩いていた。
澄みきった夜空には満天の星が煌々と散りばめられている。
月明かりに照らされて、少年は黙々と歩いた。


暫くして少年は徐に足を止めて顔を上げる。
二階にある部屋の明かりが点いている事を確認すると、小さく頷いた。

そして手に持っていた包みをポストへそっと入れると、帰路に付いた―――――。













マンションのエントランスに入ろうとした時、見覚えのある人影を見つけて小狼は目を細めた。
じっと見ていると、その人影は小狼に気が付いて、パッと顔を上げた。
その瞬間小狼の心臓がドクンと脈打つ。


「さ…さくらっ!?」

「あ、お帰りなさい!小狼くん」


パタパタと駆け寄るさくらは満面の笑みを浮かべた。

いつから此処にいたのか、さくらの頬と鼻は赤く染まりその時間を物語る。


「こんな時間に何処行ってたの?」


きょとんと首を傾げる仕草に、小狼の身体がビクッと震えた。


「お、おま…おまえこそ何でこんな所にいるんだっ!?さっきは明かりが点いてたのに…っ」

「ほぇ?明かり?」


そこまで言って小狼はしまったと両手で口を塞いだ。

少しの沈黙の後、困ったようにさくらが口を開く。


「あ、こんな時間に来ちゃってごめんね!…これ、渡したくて」

「…え」


そう言いながらさくらは小狼に綺麗にラッピングされた包みを差し出した。

小狼は驚いたようにそれを受け取ると、さくらを見る。


「クリスマスプレゼント。今日会えなかったから持って来たの」

「クリスマス、プレゼント…」


呟くように繰り返した言葉に、そう、とさくらは頷いた。


「たいした物じゃないんだけど…それを見た瞬間ね、小狼くんの顔がパッて浮かんだの」

「…え」

「だから、小狼くんに似合うんじゃないかと思って」


小狼は目の前で起こっている事が、現実なのか夢なのかよく分からなくなっていた。

まさか、さくらからクリスマスプレゼントを貰えるなんて。

心臓は相変わらず煩く鳴り響く。

やっぱり「あの人」にもあげたんだろうかと、ふと頭を過ぎったがすぐにフルフルと首を振ってさくらを見た。

そして自然と綻ぶ口許を軽く押さえて、


「あ、ありがとう…」

「ううん、いつも助けてもらってお礼を言わないといけないのはわたしの方だよ」

「…さくら」

「ホントにありがとう」


寒さなんて忘れる程に極上の笑顔は、小狼の心を温める。

そして、どちらからともなく笑みを零した。


「あ、雪…」


そう言って空を見上げたさくらにつられるように、小狼も顔を上げる。

小さな粉雪がひらひらと踊るように舞い落ちた。

二人の間で交わる白い息はゆらりと揺れて消えていく。

小狼は幻想的な夜空を仰ぎながら、少しの間この夢のように温かな時間を噛み締めていたいと心から願った―――。









『翔-フライ-』で帰るというさくらと別れ自室に戻った小狼は、先程貰った包みをそっと開けた。

その瞬間小狼の顔が真っ赤に染まる。


「な…っ」


見覚えのあるその一組の手袋は、正に先程自分がさくらの家のポストに入れてきたそれだった。

唯一違うのは、色だけ。

小狼の手袋は茶色で、さくらの手袋は白色。

つまり、お揃いになるわけで。
小狼は頬を染めたままふと思い出す。

そういえば小狼自身もその手袋をみた瞬間自然とさくらの顔が浮かんだ。

きっとさくらに似合うだろうと、きっと可愛いに違いないと感じた次の時にはもう手袋を手に取っていたのだ。


「……さくら」


さくらと同じ物を見て、同じ事を感じられた事が嬉しくて、小狼は思わず笑みを零す。

そして僅かに残るさくらの香りを吸い込むように、茶色の手袋にそっと口付けた―――。



「…メリー、クリスマス」





 

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