さくらと星の夢

□いちごけーき
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「なんや、えぇ匂いやなぁ」


部屋に入って来たさくらから甘い匂いがして、ケロは思わず顔を上げた。

そして、さくらの回りをパタパタと飛んで、その匂いの元を辿っていく。


「ふんふん…、おっ!これはケーキの匂いやなっ!?」

「よく分かったね、ケロちゃん。お父さんと苺ケーキ作ってたの」


さくらは少し驚いた表情を浮かべながらもそう言って微笑んだ。


「苺ケーキ〜!?わーい、わーい!」


ケロはさくらの言葉に目をキラキラさせて喜びながら、


「で?いつ食べれるんや?」


目の輝きはそのままに、ケロはさくらの顔を覗き込んだ。
するとさくらは少し目を泳がせて、


「ごめんね、そのケーキは明日知世ちゃんのお家に持って行くの」


と、小さめの声で呟いた。
その瞬間ケロの表情が落胆の色に変わる。
そしてそれと同時に抗議の声が聞こえた。


「えぇ〜っ!?わいも食べたぁ〜いっ!」


子供がただを捏るように、ケロはさくらの回りを飛び回わる。


「ち、ちょっとケロちゃん…っ」


さくらは、ケロのこの反応を予想してはいたものの、困った表情は隠せない。
けれど次の瞬間、ケロの動きがピタリと止まり、への字に曲がっていた口許も、にんまりと釣り上がった。

その妖しい笑いに、さくらの背筋が思わず伸びる。


「よっしゃ、ほんなら明日わいも知世ん家に行くで」

「えーっ、なんでそうなるのぉ!?」


間髪入れずに飛んできたさくらの言葉に、ケロはふふんと鼻を鳴らして、


「わいは美味いもんの為やったら何処へでも行くんや」

「またそんな自慢気に言って…。食い意地が張ってるだけじゃない」


さくらはまだ納得のいかない表情を浮かべている。
けれどそんなさくらを気にした様子もなく、ケロはお決まりの台詞を続けた。


「美味いもんには努力を惜しまんと言うてくれ」

「…何が努力よ」


それに続いたのは、さくらの小さな抗議。
ケロがこうなってしまっては、何を言ってもダメな事はさくらが一番分かっていた。
諦めのため息をつきながら、それでも文句のひとつでも言っておかないと、どうにも気が済まないさくらだった…――。
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