さくらと星の夢

□なにが好き?
1ページ/4ページ





ふわふわ…――。


なんだか、すごく眠い…。

わたし今日日直だから日誌書かなくちゃいけないのに…――。


ふわふわ…―――。


それに、夕食当番だし…。

あぁ、でもだめだ。

瞼が重くて、開かないよ………――。











「……らっ」

「ほぇ…」

「おい、起きろ」


何度目かに名前を呼ばれて、さくらはようやく目を開けた。
視点の定まらない瞳を上げて、声のした方へ顔を向ける。


「あゃ…、小狼くん?」

「こんな所で寝ると風邪引くぞ」


見れば小狼が少し呆れたようにさくらを見下ろしていた。
さくらはどうやらいつの間にか教室の机に突っ伏して寝ていたようで、枕にしていた腕が僅かに痺れている。
そのままうーんと背伸びをすれば、それを追って欠伸が吐き出された。


「わたしいつの間に寝ちゃったんだろう…」

「…日誌、書いたのか?」


小狼の言葉にさくらは「あっ!」っと声を上げる。
今日は小狼と日直の日で、さくらが日誌を書き、小狼が教材を準備室へ返すという分担だった。
小狼の方はどうやら全て終わったようで、後はさくらが日誌を書き終えるのを待つだけである。


「待ってね、すぐ書くから!」


さくらは急いで日誌を書き始める。
小狼は小さくため息をつくと、さくらの前の席へ腰を下ろした。
窓の外はオレンジ色に染まり、クラブ活動をする生徒たちの声が聞こえてくる。
小狼は何気なく日誌を書くさくらへ視線を向けた。

夕日に照らされたさくらの肌は綺麗に染まり、伏せられた長い睫毛が僅かに震えている。


「………っ」


小狼は思わず目を逸らした。
さくらを好きだと気が付いてから、どうしてもさくらを目で追ってしまう。
もちろんそうだと気付く前から追いかけていたのだろうが、気付く前と後では状況はまったく違ってくる。
素直に可愛いと思ってしまう心とは裏腹に、口から出る言葉は嘘ばかりで。

小狼の頬は赤く染まっていたが、夕日が上手く隠してくれたことに感謝した。


「出来たっ!おまたせ、小狼くん」

「あ、あぁ…」


突然顔を上げたさくらに小狼はビクッと身体を震わせる。
そしてぎこちなく立ち上がると、鞄を持った。


「じゃあ、い…行くか」

「うん!待たせてごめんね」


教室を出ようとする小狼の後を追うように、さくらも日誌を手に立ち上がる。
そして小狼が扉の引き戸に手を掛けた瞬間、二人の動きがピタリと止まった。


「小狼くん‥っ」

「あぁ、すごい魔力の気配だ」

「教室の、外?」


さくらが呟いて、二人は目を見合わせる。
お互いこくりと頷いてそれを合図に、小狼が勢いよく扉を開けた。
さくらも駆け出して小狼の後を追う。

教室を出た二人は、身構えるようにじっと立ち止まった。
いつもと変わらず伸びる廊下を見つめる。
建物自体はなんの変化もないが、校内には先程まであったはずの人の気配が消えていた。
しんと静まり返る校舎の外からは、生徒たちの声が絶えず聞こえてくる。


「ど、どうなってるの?」


さくらはドキドキしながら小狼に問いかける。


「あぁ、とにかくここから出た方がいい」

「う、うん…そうだね」


そう言いながら二人が歩き始めた時、目の前に木で出来た立札が突然現れた。


「ほぇっっ!な、なに!?」


その立札は二人に立ちはだかるようにして静かに立っている。
小狼は警戒しつつ、その立札に書かれた文章を読み上げた。


「『これから出される質問には正直に答えて下さい。そうすれば校舎の外へと出られます。質問に答えずに通り抜けることは出来ません。もし嘘を答えれば、大変なことが起きるでしょう。』…?」

「…なに、それ?」


さくらは少々呆気に取られたようにその立札を覗き込む。
今も変わらずクロウの気配は続いていた。
となればこの不思議な事はやはりそれに関係しているのだろうが、なんだか今回はいつもと違うよな気がした。


「なんだか、ゲームみたいだね」

「あ、あぁ…」


二人は首を傾げながら、顔を上げた。
すると階段へと続く廊下には、何枚もの立札が並んでいた。
それは等間隔に並び、一枚一枚に何か書かれている。


「えっ!さっきまで何もなかったのに…っ」

「…行くしかないな」


小狼は小さくため息をついて、剣を握った。
さくらも鍵を取り出して封印を解く。


「封印解除-レリーズ-!!」


よし、と杖をギュッと握って小狼を見た。


「行くぞ…」

「うん…っ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ