さくらと星の夢

□心の言葉
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あなたに、伝えたいことがあるの…。

とても、とても嬉しいこと。

けれど、あなたの瞳はいつも疲れていて、

うまく話を切り出せない。

最近あなたの笑った顔、見てないんだ…。








「ふぅ…」


携帯のメールを確認して、わたしは思わずため息を零した。
いつもと変わらない内容に、少し悲しくなってくる。
毎日同じ時間にメールが来る度、今日こそはってドキドキしながら携帯を開くけど…。
結果はいつも同じで、ため息の数は増えていくばかり。


『今日も遅くなるから先に寝ててくれ』


ねぇ、小狼くん。
わたしたち、ここ最近きちんとお話も出来てないんだよ?

小狼くんは朝早くに家を出て、夜遅くに帰って来るから。
もう一カ月くらいわたし、「いってらっしゃい」も「お帰りなさい」も言えてない。


結婚したら、いつも一緒にいられると思ってた。
最初は朝も昼も夜も、ずっと一緒だった。
だけど、だんだんお仕事が忙しくなって、帰りも遅くなって…。


「どうすればいいんだろう…」


夜になると寂しさは一層強くなって、冷たいベッドも一人では中々温まらない。

前に知世ちゃんに相談した時、きっと小狼くんも寂しい思いをしてるって言ってた。
でもお仕事も頑張らなくちゃいけなくて、それはわたしの為で…。


「分かってるけど…」


わたしは携帯電話のメール画面をもう一度見つめて、パタンと閉じた。










時計は深夜二時を指している。
いつもは待ち切れなくて先に寝ちゃうけど、今日は頑張って小狼くんの帰りを待つことにした。
やっぱり、ちゃんと「お帰りなさい」って言いたいもん。


「いつもこんなに遅いのかな…」


それからしばらくして玄関のドアが開くと、わたしはパッと顔を上げた。
そしてリビングに顔を出した小狼くんを迎える。


「お帰りなさい、小狼くん」

「…さくら、まだ起きてたのか」


少し驚いたような小狼くんの瞳がわたしを見て、鞄をソファーに置いた。
やっぱり、疲れてるみたい…。


「メール見なかったのか?先に寝てて良かったのに」

「見たけど、今日は待ちたかったの」


わたしが言うと、小狼くんは「そうか」って一言言って上着を脱いだ。
久しぶりに交わす何気ない会話に、何だかドキドキする。
可笑しいよね、夫婦…なのに。


「遅くまで起きて風邪引くなよ」

「ほぇ?」


そう言って、小狼くんはわたしの頭をポンポンって撫でてくれた。
その瞬間胸がきゅぅって締め付けられる。
だって、小狼くんが触れてくれたのがもすごく久し振りだったから…。
手のひらの温もりが、少し冷えたわたしの身体を温めていく。

そのままお風呂場へ向かおうとする小狼くんの背中に、わたしは無意識に抱きついた。
一瞬小狼くんの身体が震えたのが分かる。


「あ、あのね小狼くん…」

「悪い、明日も早いから」

「あ…」


話を続けようとした瞬間、耳を付けた背中に響いたのは拒絶の一言で。
それ以上、声が出なかった。

小狼くんの手が暖かかったから、今日はお話出来ると思ったの。
だけど…。


「ご、ごめんね!小狼くん疲れてるのに…っ」


俯いたまま何とか言って、わたしは小狼くんから身体を離した。
途端に温もりが消えて、わたしは思わず身体を震わせる。


「あぁ、悪いな。先にベッドに入ってていいから」


小狼くんは振り返る事なく、そのままお風呂場へ行ってしまった。


「…ふ‥っ」


一人残されたリビングで、溢れ出ようとする涙をわたしは必死に堪えていた。
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