さくらと星の夢

□桜とさくら
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ある春の日の休日、さくらは納得のいかない表情を浮かべて、目の前の人物を見つめていた。


「小狼くん、その本面白い?」

「…あぁ」


ソファに座って視線を本に落としたまま、小狼は答えた。


「小狼くん、今日はいいお天気だよ?」

「…あぁ」


小狼は本に夢中になっているせいか、さくらの言葉に空返事しか返さない。
それでもさくらはめげずに声を掛け続けた。


「小狼くん、春って好き?」

「…あぁ」


「じゃあ桜は?」

「…あぁ、好きだよ」


小狼はぱらりとページをめくり、変わらず文を目で追っていく。


「じゃあ桜のどんなところが好き?」

「……そうだな、泣き虫でみんなに優しくて、ちょっとドジなところもあるけど…」

「…ほぇ?」

スラスラと出て来る小狼の言葉に、さくらは思わず頬を赤らめた。
そんなさくらに気付く様子もなく、小狼は続ける。


「あぁ、あとは結構鈍感で人を疑う事を知らなくて…、だからほっとけなくなる」

「小狼くん…」


そこまで黙って聞いていたさくらは、あまりの恥ずかしかに思わず小狼の袖を握った。
すると小狼は不思議そうにさくらを見る。


「どうした?」



「…あの、小狼くん。わたしが聞いたのは、桜の花の事だったんだけど…」

「え…っ」



さくらの言葉に、小狼の顔もみるみるうちに赤く染まった。


「で、でもありがとう。すごく嬉しかったよ」

「…あ、あぁ」


小狼はそれ以上何も言わず本で隠すようにして、顔を覆った。
そんな小狼を見つめて、さくらは思わず笑みを零す。
そして真っ赤な顔で本を読む小狼の隣に座り、その肩へ身体を預けた。


今日も二人の間には緩やかな時間が流れ始める―――――。









 

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