さくらと星の夢

□雨の日の過ごし方
1ページ/4ページ




六月の雨はしとしとと降り続き、街を静かに濡らしている。


「あやー‥、やっぱり降って来ちゃったよ」


学校の玄関を出たさくらは厚い雲に覆われた空を見上げて呟いた。
そして朝家を出る時には降っていなかった雨を恨めしそうに見つめる。

けれどその顔はすぐに変わり、今度はにこりと笑った。


「でも今日はちゃーんと持って来てるもんね、傘」


さくらは自慢気に鞄から折りたたみ傘を取り出して、もう一度空を見上げる。
その瞳はまるで、「どーだ」と言わんばかりに輝いていた。


「一人で何やってるんだ、さくら」


突然後ろから声が聞こえて、さくらは驚いて振り返る。
そこには小さく首を傾げた小狼が立っていた。


「小狼くん!」

「待ったか?」


小狼が問うと、さくらはふるふると首を振って、


「ううん、わたしも今出たとこ」

「そうか、…やっぱり降ってきたな、雨」


小狼もそう言って、同じように空を見上げた。
けれどその手には、当然のように傘が握られている。


「あ、小狼くんも持って来てたんだ」

「あぁ、この時期はいつ降るか分からないからな」


小狼は言いながら手に持っていた傘を広げた。
さくらの傘よりも一回り大きなその傘は、二人入っても十分な大きさで。


「…………」

「どうした?」


広げられた傘をじっと見つめるさくらに、小狼は不思議そうに聞いた。

するとさくらは自分の折りたたみ傘を鞄にしまうと、そのまま小狼の傘へ滑り込んだ。


「さ、さくら?」

「一緒に入ってもいい?」


さくらの言葉に、小狼は一瞬喉を詰まらせる。
何気ない仕草にドキドキさせられるのは、未だに変わらない。
上目使いに問うその瞳は、小狼の心を擽るには十分だった。


「あ…あぁ」


短く答えて、思わず顔を逸らす。
久しぶりに熱くなる頬に気付かぬ振りをして、歩き始めた。


「小狼くん、どうしたの?」

「‥別に」


小狼の心など露知らず、さくらはその腕を小狼に絡める。
瞬間小狼の身体がビクンと震えた。


「あ、嫌だった?」

「い…いやっ、大丈夫だ」


小狼のいつもと違う様子に、さくらは益々首を傾げて、


「なんか変だよ?小狼くん」

「あぁ、変…だな」


いつもならこんなに緊張しない筈なのに、今日は煩いくらいに心臓が鳴り響いている。
きっとじめじめと不愉快な梅雨の所為だと言い聞かせて、小狼はそのまま歩き続けた。

その内隣で笑い声が聞こえて、小狼はさくらを見る。


「どうした?」

「ううん、何だか今日の小狼くん可愛いなって思ったの」

「な…っ」


思いがけない言葉に、小狼は顔を真っ赤にさせた。

そして楽しそうに笑うさくらを暫く見つめて、その肩をグイッと引き寄せる。
さっきよりも近づいた身体に、さくらは驚いて小狼を見上げた。


「しゃ、小狼くん?」


その顔は既にいつもの小狼に戻り、


「いつまでもやられっぱなしは悔しいからな」


と、悪戯っぽく笑った。
それからさくらの頬を人差し指で軽く突いて、


「今度はさくらの番だろ」

「もぉっ!小狼くんっ」


完全に形成逆転したさくらの頬はみるみる内に真っ赤に染まった――――。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ