さくらと星の夢

□大好きなきみだから
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「誕生日プレゼント?」


小狼は飲みかけの紅茶をテーブルに置いて、さくらを見た。
その視線は懇願するようにキラキラと小狼へ注がれている。


「そうなの、もうすぐ知世ちゃんのお誕生日なんだ。それで一緒にプレゼントを選んでほしいなって思って」

「あぁ、別に構わないけど」


小狼が言った瞬間、さくらの表情がぱぁっと明るくなった。


「ほんと!?ありがとう」


あまりの喜びように、小狼は思わず首を傾げる。


「そんなに嬉しいのか?」

「‥え?」


小狼の問いかけに、さくらは頬を赤らめると照れくさそうに笑った。


「‥嬉しいよ。だって小狼くんとデート出来るんだもん」


さくらの仕草に、小狼の心臓がトクンと高鳴る。
そして向かいのソファーに座っていたさくらの隣へ腰を下ろすと、いきなりその身体を抱き締めた。
突然の小狼の行動に、さくらは驚いて身を捩る。


「ど、どうしたの?小狼くん」

「‥デートならしてるだろ?いつもこうやって」


少し低めに耳元で囁くと、さくらは頬を染めたままぎゅっと目を瞑った。


「そ、それはそうだけど…外に出掛けるのは、こういうのとはちょっと違うの」

「気持ち的に?」

「うん…」


そんなものか、と小狼は頷いて、腕の力を緩める。
そしてさくらの唇へ軽く口付けて、クスッと笑った。


「じゃあ今度の日曜日は楽しいデートにしような」

「うんっ!」


その言葉にさくらは勢いよく頷いて、嬉しそうに笑った。
小狼はそんなさくらをもう一度抱いて、そのままソファーへと転がる。
それから今度は少し深めに口付けて、


「今日は、こっちのデートを楽しくしないとな」

「ほぇぇっ!しゃ‥小狼くん」


驚くさくらの頬に唇を落として、じゃれ合うようにその身体に顔を埋めた。

そして二人の楽しげな声は、夜遅くまで途切れることは無かった。














次の日曜日、先に待ち合わせ場所に着いたのは珍しくさくらの方だった。


「あれ?小狼くんまだ来てないのかな?」


いつもはすぐに姿を見つけることが出来るのに、今日はいくら辺りを見回しても小狼の姿はどこにもなかった。
さくらは不思議に思いながら、時計に目をやる。


「まだ待ち合わせまで五分あるし、待ってよう」


待ち合わせ場所である駅前の噴水の前に腰を降ろして、空を見上げた。
慌ただしく人が行き交う駅前と違って、空に広がる雲はゆっくりと漂い、時間の流れの違いを感じさせる。


「小狼くん、いつもこんな風に待ってるのかな…」


いつも待たせてばかりのさくらにとって、小狼を待つという事は何だか新鮮で、けれど不安でもあった。


「‥何かあったのかな」


さくらがいくら早めに着いたと思っても、小狼は必ず先に来てさくらを待っていた。
「いつ着いたの?」と聞いても、返ってくる言葉はいつも同じで、「おれも今着いた」の一言。

その小狼がさくらよりも遅いという事は、何かあったと考えるのが自然なことで。
さくらは考え始めると急に不安になり、携帯電話を取り出した。
するとメールが一件入っていることに気が付く。


「あれ?いつの間に入ったんだろう…」


呟きながらメールを開いてみる。
それはやはり小狼からで、その内容を読んでさくらはホッと安堵の息をついた。


『悪い、寝坊した。少し遅れる。』


短い簡潔な文章に、さくらは思わず笑みを零した。


「小狼くんが寝坊なんて、珍しい」


クスクスと笑いながら、メールの返信をしようとした時、自分の頭上が急に陰ってさくらは顔を上げた。
そこには見知らぬ男が一人、笑みを浮かべて立っている。


「こんにちは」

「ほぇ?こ、こんにちは…」


突然挨拶を交わされ、さくらは反射的に頭を下げた。
するとその男はさくらの隣に腰を下ろし、その顔を覗き込む。
風貌からしてまだ十代の若者で、けれどさくらよりは年上に見える。
ダボついた服を身につけ、首やら手首にはジャラジャラとアクセサリーが付いている。
さくらは直感的にこの人は苦手だと感じた。
そして何より、見知らぬ自分に慣れ慣れしく話しかけてくるその男に、いくら鈍いさくらでも警戒の色を見せる。

けれど男はそれを気にした様子もなく、話かけてきた。


「可愛いね、誰かと待ち合わせ?」

「そ、そうですけど…」


男がズイッと近づく分さくらは同じ極の磁石のように身体を放した。


「でもさっきからずっと待ってるよね、もう来ないんじゃないの?」

「そ、そんなことありません!もうすぐ来ます!」


何だか小狼の事を悪く言われた気がして、さくらは思わず声を荒げる。
けれど男は顔に笑みを作ったまま、


「あ、怒った顔も可愛い!」

「な…っ」


男の発言にさくらは顔を真っ赤にさせたままプイッと顔を背けた。

けれど強気な態度を取っては見たものの、内心さくらの心臓はドクドクと早鐘のように鳴り響いていた。
チラリと時計に目をやると、待ち合わせの時間から十分が過ぎている。


(小狼くん、まだかな…)


「ねぇ、あっちにすっごい面白い店があるんだけど行こうよ」


その間も男は休むことなく話掛けてくる。


「い、いいです。ほんとにもうすぐ来ますから…っ」

「あれ?震えちゃって、そんなにおれのこと怖い?」


男は言いながら、さくらの手を握った。
瞬間さくらの身体がビクンと跳ねる。


「や‥っ、放してくださいっ」


さくらは震える声を絞り出す。


(嫌だ…っ、気持ち悪い…)
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