さくらと星の夢

□無意識×無意識
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「え?欲しいもの?」


突然そう聞かれたさくらは、思わず首を傾げた。
考えればないわけではないが、こんな風にいきなり聞かれると思い浮かばないもので。
さくらはうーんと頭を捻って考え込んだ。


「欲しいもの、欲しいもの…」


真剣に考え込んでしまったさくらを見て、質問を投げかけた小狼は軽い罪悪感を覚える。


「いや、そんなに真剣に考えなくてもいいんだぞ…?」

「ほぇ?あ、うん‥」


その言葉にさくらは我に返ったように、目の前の人物を見た。
‥というよりは、じっと見つめた。


「…さ、さくら?」


穴が開くのではないかと思う程、くるくると大きな瞳が小狼を捉える。
やがてさくらは嬉しそうに笑うと小狼から視線を外した。
そして僅かに頬を染めて口を開く。



「…わたしね、小狼くんとこんな風に過ごせる時間が沢山欲しいな」

「…え」



不意打ちに聞かされた言葉に、小狼の思考は一瞬停止する。
まるで、甘く痺れるようなその感覚に思わず頬が熱を持った。

小狼はこういう時、つくづく思う。

無意識って恐ろしい。

さくらがさらりと言ってのけた言葉に、小狼がどれほど翻弄されるか。
きっとさくらがそれに気が付く事はない。

だって彼女はあくまで『無意識』なのだから。


「小狼くん…?」


急に何も言わなくなった小狼に、さくらは不安気に声をかける。
今度は現実に引き戻された小狼が、さくらをじっと見つめた。
そして何も言わずにその腕を引き寄せて抱きしめる。


「しゃ、小狼くんどうしたの?」


突然の出来事に、さくらは驚いたように声を上げた。
それと同時に耳元に触れた熱い息遣いに思わず身体を震わせる。


「…おれも沢山欲しい、さくらと一緒に過ごせる時間が」

「小狼くん…」


いつもより少し低めの声がさくらの赤く染まった耳を通り抜けた。

それはさくらだけが知っている彼が甘える時の、サイン。

目を閉じて、頬を寄せて、長い指が愛おしそうに髪を梳く。

瞼に落とされるいつもより熱い唇は、それだけでさくらを翻弄する。


「…さくら」


けれどさくらは思う。
きっと小狼はそんな事には気が付いていない。


だって彼はあくまで『無意識』なのだから。


さくらは小狼の背中を抱きしめて、胸に顔を埋めた。
大きく息を吸い込むと、大好きな香りがした。


「…わたし、幸せだよ?」

「あぁ、おれも…幸せだ」







共有出来る時間が嬉しくて、『幸せ』で、一番に欲しいもの―――――――。









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