スピンオフ・ブック

□第1回樹桜家クロと隠れん坊
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お前ら……
2人
何 してんの?

第1回樹桜家クロと隠れん坊p

GWで何処に行くかを思案している世間を余所に、此処樹桜家では、世間の浮足だった雰囲気とは関係なく白熱した雰囲気が、樹桜家の室内に漂っている。

「7……8……9……10っ!も〜良いかい?」

明るく元気な耳に心地良い少女の声がリビングに響く。

「も〜良いかい?」

少女が聞くが返答はなく、少女は5分待ってからリビングを見渡し

「さて、何処から探そうかな。」

小さく呟き、少女は暫く考えてからリビングを出、廊下で上に上がる階段と廊下を真っ直ぐ進んだ先にある洗面台を見、一度頷いてから少女は自分や歳の離れた兄や父親の仕事場兼寝室などがある、階段を上り、右側にある自分の部屋と更にその奥に父親の仕事部屋兼寝室があり、左側には外出中の兄の部屋があり、少女は暫く兄の部屋を見

「此処……?」

小さく呟き、左側にある兄の部屋のドアを開き、首だけをドアに入れ室内を見渡しお目当ての人物がいない事を確認し軽く溜息を吐き、ドアを閉め廊下を少し眺めた後階段を下り

「何処……探そう。」

誰に言うでもなく言い、宙を見て考える少女の耳にゴトッっと何かが動く音が聞こえ、音がした階段下の緊急避難用の道具などがしまってある扉を開け

「紅月(くずき)みーつけた。」

嬉しそうに言いながら、少女が抱え出したのは赤い色の体に猫目の丸顔の頭の上には耳とも角とも見える謎の生き物を高く上げ

「今度は紅月が鬼ねっ。」

少女が言うのと同時に、家の玄関が開く音と共に

「菜津と紅月お前ら何……してんの?」

低く成り切らない耳に心地良い声が、玄関から聞こえ菜津と紅月と呼ばれた少女と鬼らしき生物は、声のした方に視線を向け

「あっ!葉兄ぃー。」

2番目である兄に嬉しそうな声で、側まで行き

「今、紅月と隠れん坊してる処なの。」

言う菜津に葉助は暫く無言で菜津と紅月を見

「紅月はともかく、菜津……お前は中学生なんだから友達と何処か遊びに行くとかないわけ?」

呆れた口調で言う葉助に菜津は

「だって他の子は皆家族で出掛けたりして遊べないし、優や春璃は彼氏とデートでかまってくれないし……家はお父さんも葉兄ぃーも晃兄ぃーもお仕事急がしくって何処にも連れって行ってくれないじゃん。」

頬を膨らませて言う菜津に葉助はちらりと菜津を見、小さく溜息を吐いてから

「で、次の鬼は誰なわけ?」

呆れたような何とも言い難い声の葉助に、菜津は満面の笑みで紅月を葉助の前に持ち上げ

「次は紅月が鬼の番なの。」

目前に差し出された紅月を葉助は、紅月の頬を横に引っ張り

「紅月、お前で大丈夫なのかぁ?」

何処か少し馬鹿にしたような声の葉助に、紅月は小さな手で葉助の手を払いのけ

「馬鹿にするニャッ。
ボクにかかれば葉助と菜津を探すのはご飯食べるより簡単ニャ。」

真顔で言う紅月に葉助は、口元に笑みを浮かべ

「お前飯食うの難しいかよ。」

笑いながら言う葉助に紅月は葉助を睨みつけながら

「葉助を真っ先に見付けてやるニャ。」

肉球を葉助に見せながら宣言する紅月に、葉助は不適な笑みを浮かべながら

「やれるもんならやってみろ。」

言い二人睨み合うのを気にした風もなく、菜津は紅月を下に降ろし葉助と紅月を交互に見

「じゃー隠れん坊スタートっ!」

菜津の声と共に葉助と菜津はそれぞれ隠れる場所を探しに行き、紅月は小さな手で目を隠し、数えはじめた。

☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆

数え終わり、紅月は廊下で暫く考えてから、顔を上に向けクンクンと匂いを嗅ぐと、足音を立てずに軽やかな足取りで廊下の1番奥にある脱衣所まで行き、猫用のドアを通りお風呂場に入り尻尾を軽く振り、浴槽の上にジャンプをし

「葉助見付けたニャっ!」

言いながら、葉助を見下ろす紅月に葉助は伏せていた上半身を起こし、紅月と目を合わせながら

「匂い嗅ぐとか、ずるくね?」

言う葉助に紅月は鼻を小さくならし、浴槽の縁から降り猫ドアを通り菜津を探しに行く紅月を見送り、葉助は上を向き小さく息を吐き暫くそのままの体勢で何かを考えてから浴槽から出、リビングに行きリビングのドアを開け中に入り

「……何してんだ?俺。」

一人呟きTVの前に置かれてるソファーに座り、本屋で買ってきたお気に入りの作家が出した新作の推理小説を読みながら、紅月が菜津を探す足音を聞き菜津と紅月の姿を想像し、二人の楽しそうな雰囲気に口元に小さく笑みを浮かべ

「まったまには、良いか。」

口の中だけで呟き、紅月が菜津を探し出すのを小説を読みながら気長に待つ葉助に、5月の午後の日差しが辺りを優しい雰囲気に包む。


            End

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