短編
□ゲームは一日一時間
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「うーむ…。」
高校生、真田幸村は自室で唸っていた。
目の前には、いかにも幸村の苦手そうなパソコンが。
さっきから唸ったり、叫んだりを繰り返している。
「旦那ー、おやつだよー。」
そこへ、猿飛佐助がドーナツを持ってやって来た。
珍しくパソコンなんてものと向き合っている幸村の様子を伺いに来たのだ。
「おぉ!!佐助!!もうこんな時間か!!」
どうやら時間を忘れ、パソコンに耽っていたらしい。
時計を見ると、既に三時を回っていた。
「旦那がパソなんて珍しぃー!!どういう風の吹き回しよ?」
「うむ、実は元親殿に“モンスターハンター”なる物を教えて頂いたのだが…。」
「モンハンかぁ…、懐かしー!!」
佐助はまるで何年も前のことのようにしみじみと言う。 なにやらうんうんと頷いたり、いやー、あれは大変だったわ、などと、ぶつぶつと呟いている。
「やったことがあるのか!?」
「前ねー、結構ハマったよ。PSPの方だけどね。」
ネットの方はやったことないけどね、と付け足す佐助に、幸村は目をキラキラと輝かせている。
「佐助ぇ…、恥を忍んでお頼み申す!!俺にやり方を教えてくれぇぇぇぇ!!」
幸村は床にめり込まんばかりの勢いで頭を下げる。ミシッと、床の軋む音が佐助の耳に入り、嫌な汗がだらだらと流れた。
新築の住みやすいこのアパートを、入居一週間で壊す訳にはいかない。
「分かった!!分かったから一旦落ち着こう!!」
危険を察知した佐助は、すぐさま幸村を止めに入った。
モンハンに繋ぎ、会員登録を済ますと、適当にアバターを作り、名前を『yukimura』とした。
「じゃあまず…、どの武器がいいの?」
ディスプレイを指差し、佐助はコマンドを示す。
「どんな特徴があるのだ?」
「んー、話すと長いからざっくり言うと、近接と遠距離。その中でも、力はあるけど動きが鈍い大回りタイプと、動きは速いけど一撃が軽い小回りタイプかな。」
「うーん、どっちがよいのだろうか…。」
何種類もある武器選びはかなり重要である。
その人その人の性格が反映されるからだ。
「そうだね…、中間は太刀と双剣、弓あたりかな…。」
大剣よりパワーは無いが、小回りの利く太刀。ガードは出来ないが、手数の多い双剣。
ライトボウガンのように軽くなく、ヘビィボウガンのように動きが重くなく、力を溜めたり、矢に特殊な効果の付けられる弓。
「よし!!俺は双剣を使うぞ!!」
「いいんじゃない?守るより攻める旦那に合ってるよ。」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!燃えてきたあぁぁぁぁ!!」
手始めに、雑魚を倒すクエストからやってみることにした。
武器がフィットしているのか、クエストは順調に進んでゆく。
「旦那、初めてにしちゃ上手いよ!!あ、緊急クエスト出てきた。」
しばらくすると、☆1のクエストの一番下に緊急クエストの表示がでた。
緊急クエストとは、☆2のクエストをプレイできるようになるための大事なクエストである。
幸村は装備もそこそこ、アイテムも揃っており、かなり有利な状況だった。
「うん、今の旦那ならこれくらい楽勝だよ。行っておいで!!」
「うぉぉぉぉ!!たぎるぁぁぁぁ!!」
幸村は、流石に雑魚モンスターの様にはいかず、多少苦戦していたが、なんとか勝利したようだ。
「旦那うまっ!!いい線行ってんじゃない?」
「そ…そうか…?」
それから幸村は…、モンハンにハマった。