ブラッディエンジェルパロ

□天使、拾いました
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その日は、酷いどしゃ降りだった。

ざぁざぁと、空の泣く音が、地上に木霊する。
まだ夕方の5時にもなっていないというのに、夕立は、昨日まで晴れやかだった空を鉛色に塗り変えた。
まだ日は長いというのに、嫌な暑さと湿気で、髪が肌に張り付くのを鬱陶し気に払う。
傘を差しながら、ばしゃばしゃと小気味よく歩くのは、高校2年生の徳川家康。
どうしても雨というものは気が滅入るのか、ため息を吐きながら帰路についていた。

いつもの道を抜け、もう少しで自宅、という所で、何やら踞っているものを見つけた。
家康の近所の家の塀に、座り込み、もたれながら、顔を伏せている。
それは、人だった。
髪の長さから、少年であると推測できた。
身長から、おそらく家康と同じくらいの年齢であると分かる。
余りにも現代人とは思われないような、陣羽織のようなものを素肌に羽織り、中には黒の今で言うならばタンクトップのようなものをインナーに着た、不思議な服装である。
銀の髪の毛は少年の呼吸に合わせ、きらきらと輝いていた。

「あの…、大丈夫か…?」

困っている人がいたら放っておけない、典型的なお人好しの家康。
傘を放り、ずぶ濡れになりながらも、しゃがみこんで反応を確かめた。
そっと肩に手をかけ、揺さぶる。
細い手足と首筋が、大きな手によって、かくんかくんと揺れ、銀の髪がサラサラと踊る。
その拍子に、伏せていた顔が見えた。
線の細い鼻や、薄く紅に色づいた唇。
瞳は、目を閉じていて分からないが、睫毛が長く、ふさふさとしている。
白い肌は、陶器のように滑らかで、中性的な顔立ちだった。
しばしその美しい人形のような顔立ちに見とれ、ぼぅっとする。
はっと我に返ると、また声を掛けたりと色々と試したものの、反応は無い。

「うーん…、どうしようか…。」

またしばらく考え込んでいると、今まで閉じていた瞳が、うっすらと開く。
琥珀色の瞳は、吸い込まれそうな美しい色だった。
幾度も瞬きを繰り返し、焦点があったかと思うと、いきなりかっと見開いた。
瞳には、不安と恐怖の色が宿っている。

「き…貴様は…っ。」

表情とは裏腹に、掠れた弱々しい声しか出せず、もどかしいのか、眉間に皺をよせる。

「ワシか?ワシは徳川家康だ。この近くに住んでるんだか、大丈夫か?」

徳川家康、という名を聞いて、その人はほっとしたような表情を見せた。

「貴様が…家康か…。私は…石田…三成…。家康…、貴様の家に…連れて…ゆ…」

け、と言えずに三成と名乗る彼は意識を手放した。
がくり、と頭部が崩れ落ちる。
家康はしっかりと後頭部をキャッチし、三成という彼を抱え込む。
男子、というにはあまりに軽く、家康程の筋力があれば易々と抱き抱えられる。

「とりあえず…、言われた通りにするかな?」

よく状況を掴めないでいた家康だが、ここに置いたままではまずいと、三成を背負おうと、三成をその逞しい腕で抱えた瞬間。
三成の細い背中に、違和感を感じた。
ふさふさとした感触だか、指に絡み付く一本一本が、絹のように滑らかだ。
それは真っ白な、美しい羽根だった。
あるはずのないことが幾多にも重なり、家康はパニック状態になる。
頭に?マークが浮かびっぱなしだが、放っておくことはできず、すぐそばの自分のマンションの一室へと運びこんだ。


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