BATTLE ROYALE

□OVER-2
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シンジと付き合い始めて1ヶ月。
付き合うといっても、お互いの家でイチャイチャしたり、デートっぽく映画を見に行ったり、その程度だけど。
シンジに優しくされて、俺は全く悪い気はしなかった。むしろ嬉しくて、俺もシンジのこと好きなのかも、と考えることもあった。
「豊…好きだ。」
耳元で好きだと囁くシンジ。でも、俺も好きだよ、とは言えず、「うん…。」とだけ言う。
今もシンジの家のソファーで抱きしめられている。俺としてはゲームもやりたいけど、シンジの好きなようにさせていた。
絆の深さを実感できるという意味で、俺もこの時間が好きだった。

なのに。

「豊、別れよう。」
それから数日後、帰り道でシンジがそう言ったのだ。
「え…?」
シンジの目は真剣だった。
「本気…なの?」
「ああ。」
「なんで…?」
不安になって俺は聞く。もしかして、嫌われたのかな…。
「お前のこと、好きじゃなくなった。…あ、友達としては今でも好きだぜ。だから、元の関係に戻りましょうってこと。」
嫌われてはいないらしいが、でも、納得いかなかった。
「だって…。」
あんなに、俺のこと好きって言ってくれたのに。
言いかけた言葉は、口から出ることなく、喉の奥に戻っていった。
そう、俺はシンジのことを『好き』じゃなかったんだから、別に何も悲しむことはないのだ。
「…いいか?」
「…うん。分かった。」
シンジはホッとしたように息を吐いた。
「じゃ、また明日な。」
いつもの別れ道。俺も「じゃあね。」と手を振り、シンジとは別の方向へ歩いて行く。
ただの親友に戻るだけ。何も悲しむべきことはない、はずなのに、俺の心は捨てられた子犬のように、ポッカリと穴が空いているようだった。

次の日。
本当に今まで通り、シンジは交差点で待っていた。
「よ。」
手を上げて言うシンジ。
「おはよ。」
俺も挨拶して、2人でいつものように他愛もない話をしながら、学校に向かう。
そしていつも通りの1日を過ごし、今日はシンジが部活なので、シューヤ達と帰った。
家に帰り、ソファーに腰を降ろすと、ほんの数日前まで、ここでシンジが抱きしめてくれていたことを思い出す。
(なんで、急に…)
もうああいうことはしてくれないのかと思うと、また心の穴が広がった気がした。

それから3日後、シンジの家に誘われたので、行くことにした。
だが、もう付き合ってはいないので、ただゲームをするだけ。
ソファーに並んで座ると、ごく普通のことなのに、シンジとの距離が開いた気がする。
それが嫌で、シンジにギュッと抱きついた。別に付き合う前からしていた、俺にとっては普通の行為。
「…豊?」
久々に感じるシンジの体温。だが、シンジは抱きしめ返してはくれなかった。
…まあ、もう恋人じゃないんだから、当然なのだが。
「…そういうの、もうやめようぜ。」
「え?」
シンジが冷たく言った言葉は、俺の頭に虚しく響く。
「もう…付き合ってないんだから。」
な? とシンジは言う。
「なんで…これぐらい普通じゃん。」
俺以外に抱きつくな、と言われたこともあった。なのに、なんで。
「だから…嫌なんだよ、思い出すのが。」
シンジは辛そうに言った。
俺との思い出は、思い出したくもない過去になってしまったのだろうか。
そもそも男と付き合ってたことを、シンジは後悔しているのかもしれない。
やはり、受け入れるべきではなかったのだろうか。シンジに愛されているのは何か心地よくて、それに甘えていた俺が悪かったのだろうか。
「…分かった。」
俺は何も言い返すことはできず、ただそう言った。

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