BATTLE ROYALE

□OVER-1
1ページ/4ページ


豊のクラスのドアを開け、目に入った光景。
それは、嫌でも頭から離れなかった。

豊が、俺以外の奴に抱きついている。
ただそれだけのこと。
でも、なぜかそれを見た俺は、頭の中が真っ白になって…
いつもの冷静さはどこへ行ったのか、ドクドクと波打つ心臓の鼓動。
それを感じながら、俺は自分のクラスへと戻って行った。

次の授業など何も頭に入らず、ひたすら豊のことを考えていた。
なぜ、こんなにも…。
焦り、苛立ち、様々な感情に襲われる。
そう、今までは豊が抱きついていいのは俺だけだと思っていたのだ。
幼馴染の特権。他の友達以上の、友情表現。
他の奴にはそんなことしないと思っていたから、それが当たり前だった。
お互いの家でゲームなどをする時は、俺の膝の上が豊の定位置だったし、泊まりに来たときは俺に抱きつきながら寝てたっけ。
それが俺に対してだけ、ではなかったというのか。
なるほど。独占欲。それが答え。だがいくら幼馴染とはいえ、こんなにも独占したいなどと思うだろうか。
俺は、そこまで豊に固執していたのか。
そう思うと何となく自分が嫌になって、何も考えたくなくなった。

「あ、シンジー!」
放課後、部活のない日は豊と一緒に帰るのが習慣だった。
「もう、シンジ辞書返しに来るの忘れたでしょ!?」
あー、そういえばあの時、豊に借りた辞書を返しに言ったんだっけ。
それすら忘れて引き返してしまったのだ。
「あー、悪い。忘れてた。」
あくまでポーカーフェイスを装い、いつものように対応する。鞄から辞書を取り出して、豊に渡した。
「ほら。悪かったな。ありがと。」
豊は辞書を受け取り、鞄にしまう。
「じゃ、帰ろうぜ。」
「うん。」

いつもと同じ帰り道。
他愛もない話をして、2人で笑いあって…やっぱり、俺には豊と話してる時が一番楽しい時間なのだ。
さっきのわだかまりは消えないが、それこそいつもと同じように、話していた。

…つもりだった。

交差点に着く。2人の家への分岐点。いつもここでお別れだ。
「じゃ、また明日な。」
「うん。じゃあねー。」
いつものように別れる。だが、俺は2歩目で歩みを止めた。
豊に腕を掴まれていたから。
「シンジ、何かあった?」
豊の心配そうな声。やっぱり、何年も一緒にいれば分かってしまうものなのだろうか。
「…何かって?」
それでもクールに(少なくとも俺はそう思っている)聞き返す。
「今日、シンジがいつもと違う気がして。…何か、元気ないみたいで。」
俺の目を覗き込む豊の視線は、心から俺を心配していた。
言えるはずもない。
お前のせいだ、なんて。
俺の独りよがりなんだから。
「いや、別になーんにもないぜ。考えすぎじゃねーのか?」
クシャッと豊の頭を撫でて、俺は言った。
「そう? …でも、もし何かあったら相談してよ。幼馴染なんだから。」
「ああ、分かったよ。」
頼りにしてるぜ、と付け加えて、じゃあな、と言い、俺は自分の家へと歩き出した。

なんで、こんなにも、苦しいのか。
その答えは、まだ、俺には分からなかった。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ