BATTLE ROYALE

□席替え
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3-B、朝のHR。今日はいつもにも増してにぎわっていた。
なぜなら、席替えという一大イベントがあるからである。
それはもちろんこのクラスでも同じだった。
狙いは…七原の隣。
ザ・サードマンこと三村信史も、一見クールな杉村弘樹も、転校生の川田章吾も、なんとあの元渕恭一でさえ、彼の隣を狙っていた。

「もちろん七原の隣は俺だ。あいつもそれを望んでいるはずだ。」と信史。
「そんなこと、本人にしか分からないだろ。」と川田。
「三村は駄目だな。いつ七原に手を出すか分からない。」と杉村。
「それはみんな同じだ。俺が秋也を守らないと…。」と慶時。

慶時も、彼らから七原を守るという名目で、もちろん七原の隣を狙っていた。
もちろん、女子は言わずもがなである。
このクラスは席替えで男女を分けずに混ぜて行うので、誰にも等しくチャンスはあった。

「はい、じゃあ出席番号順にくじを引いて、まだ見せないで自分で持っていなさい。」

担任の林田の声。同時に男子1番の赤松がおずおずと教壇に向かう。

「三村くんの隣はア・タ・シv」

という月岡の声に吐き気を催す三村。

「ボスの隣…ボスの隣…。」

沼井は1人でブツブツ言っていた。みんなが皆、七原の隣になりたいわけではないようだ。

「…次、女子14番!」

みんな紙を見るなと言われたものの、そう大人しい生徒たちではない。勝手に見ている生徒が大半で、赤松なんかは笹川の前の席だと言って泣きそうになっていた。
次に七原がくじを引いた。クラスほぼ全員の視線にも気づかず、あっさりとくじを引く。
彼もやはりチラッと紙を見ていた。ゲッ、というような表情。その表情ももちろんクラス中の視線に晒される。


そうこうしているうちにくじ引きは終わった。

「じゃ、一斉にみんなで自分の席に移動!」

林田の声で一斉に動く生徒たち。
注目の的、七原は、一番前の左端という席に行った。

「あーあ、一番前だよ…。」

だが、あーあ、というのは、みんな同じだった。つまり、七原の隣は1人しかいないのだ。
そしてその隣は…なんと瀬戸豊だった。三村、そしてクラスほぼ全員の殺意を含んだ視線を浴びる瀬戸。

「やったぁ、シューヤの隣v」

瀬戸はそれに気づいてか気づいていないのか、クラス中に通る声でそんなことを言う。
語尾にハートマークついてますよ豊クン。三村は、彼を後で“処刑”することに決めた。
ちなみに三村は一番後ろの右端。七原とは一番離れた席だ。
(神は…俺を見放した…。)
神など普段信じていないくせにそんなことを思う三村。

「あれ、三村くんじゃないv」
「ゲッ!!」

勢いで立ち上がる。そう、彼の隣はなんと月岡だったのだ。
まさか、そんなことが、あり得るのだろうか。愛する人を失った上、その対極ともいえる人物に取り憑かれるなんて。

「俺は…俺は…」

ブルブルと体を震わす三村。今にも発狂寸前である。

「これって運命ってヤツ? フフ、いっぱい愛してあ・げ・るvv」
「うおおおおおおおおお(ry」

三村信史はついに叫んだ。
一方の七原争奪戦。まだ七原の後ろという席もある。斜め後ろでもまあ及第点だろう。
その斜め後ろには内海幸枝が座った。

「七原くん! あ、それと瀬戸くん!」
「おお、委員長ご登場!」
「そこ、委員長だったのか。よろしくな。」

瀬戸は内海の発言の3文字に込められた意図など気づいていないようだ。
七原も内海の黒い感情など知らずに、至って普通に返答する。
内海は、できれば瀬戸と席を交換したかったが、クラス委員長という大義名分もあり、そんな身勝手なことはできない。
それにまあ、この席なら授業中いつでも七原を見ることができる。まあグッドだ。

「…ところで俺の後ろって誰なんだ?」
「俺だ。」

ヌッと現れたのは、なんと桐山。

「き、桐山!」
「え、桐山くん?」
「あ、そう…だったんだ。」

内海も瀬戸も焦っているようだ。なんせ彼は、不良だ。

「桐山もよろしくな。」
「…ああ。」

秋也はあくまで普通でいようとしたが、他の2人には自然と緊張感が流れる。

「でも俺、桐山のことほとんど知らないんだよなー。」
「…どういうことだ?」

桐山が問うと、七原が答えた。

「いや、俺、桐山と話したことほとんどないからさー…。」
「あ、そういや俺も。」「私もそうだわ。」

七原に続いて2人も答えた。

「…そうか。」

まあ、彼はいつもグループのメンバーといたし、それに自分から関わりたい人物でないことは確かだ。
そもそも教室にいないことも多かった。

「じゃ、目が悪くて黒板が見えない者はいるかー?」
「ハイ! ハイ! ハイ!!」

三村が起立する。それにつられて何人かが席を立った。

「前に行きます! 豊と代わります!」

三村が主張する。

「いや、瀬戸とは俺が代わる!」「いや俺だ!」

続いて飯島と、国信の声。あくまで“秋也を守る”のが目的の国信。本当はどうだか知らないが。

「瀬戸、お前人気者だな。」

七原は、自分が狙われていることには気づかずにそう言った。色々間違ってますがね。
その後、林田はクラス名簿に目を通した。

「お前たち、1学期の視力検査は異常なしだったが?」
「げっ…最近、急に悪くなったんだ!」

珍しく、“第三の男”三村信史は焦っていた。他の2人は、(そんな言い訳が通じるか、くそ、今回は諦めよう。)と心の中で思っていた。
だが、そんな三村に林田は冷たかった。

「…では、これで決定。書記は今の席を座席表に記録しておくように。以上。」

魂の抜けたような表情の三村。

「三村くん〜。隣になったのもきっと運命ね!」

三村は月岡を無視して教室を出ていった。

「ゆたかあああああああっ! お前えええええええええぅ!」

次の瞬間には教室の前のドアから三村の姿が。
杉村が慌てて止めに入るも、残念ながら三村は止まらなかった。あまりの勢いになんと杉村がコケてしまったのだ。

「わっ! シンジ!!」
「お前…よくも…よくも…!」

三村以外の生徒は、仕方がない、と諦めていた。だが七原の隣を逃した上に隣が月岡になってしまった三村は、諦められなかった。

「シューヤ〜、シンジが怖いよ〜!」

瀬戸は慌てて七原の後ろに隠れた。その上、抱きついていた。

「おい三村、落ちつけよ。隣が月岡になったぐらいで…。」

三村は、お前の隣になりたかったんだよ!! と叫ぶのを必死でこらえた。さすがに本人の前で邪悪な意志を見せるわけにはいかない。

「…あいつは、悪い奴ではないぞ。」

突如会話に入る桐山。三村は驚いて彼の方を見た。月岡のことを言っているのだろう。

「ただ少し…何かがおかしいだけだ。」
「その少しが問題なんだよ、桐山…。」
「まあ、仕方ないだろ。今回は諦めろ。」

七原に諭すように言われ、三村はしょんぼりとして帰ろうとして…

「豊、ちょっと来い。」
「え、うん…。」

少し離れたところで瀬戸に耳打ちをする三村。

「お前、七原に抱きつくなよ。」
「え〜なんで〜? シューヤ可愛いもん。」

この腹黒野郎。無邪気そうな顔してそんなこと考えてやがったか。

「お前なー…。とにかく駄目だ! あいつは俺のモンなの。」
「うわ、シンジ独占欲強っ。」
「殺されたいか?」
「ごめんなさい!」
「よし。分かったな。七原に変なことすんなよ。」

そう言って三村は自分の席へ戻った。

それから数日間、三村は移動教室以外の授業をほとんどサボるか、寝るかして過ごした。
たまに起きると、月岡に話しかけられ、そして視線をずらすと、七原と仲良く話す瀬戸の姿が教室の奥に見えるのだ。

「あ〜あ…。」

そしてまた眠りにつく。彼が報われるのはいつの日だろうか。


→後書き


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