BATTLE ROYALE
□Apologize
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三村信史の両親は、出張が多い。
小さい頃は自分もついて行っていたが、中学になってからは家に1人でいることになっていた(妹はついて行くが)。
今日がちょうどその日だ。
「暇だな…。」
パソコンでやることも特にない。やるゲームもない。信史は飽きっぽいので、ゲームなどに熱中するタイプではなかった。
手が携帯に伸びる。暇ならば。すぐ近くの幼馴染を呼び出すのが一番いいか。
* * * *
ほどなくして、信史の家のインターホンが鳴った。
一応ディスプレイでその人物を確認してから、ドアを開ける。
「なんだ、早かったな。」
「だって、俺も暇だったんだもん。」
瀬戸豊。信史の小学校からの幼馴染にして、今もクラスメイトである。
「今日は夜まで遊べるよ。俺の親も出かけてるから。」
嬉しそうに豊が言う。こりゃ、しばらくは暇がつぶせそうだ。
「でもシンジ珍しいね。」
「何が?」
豊の問いかけに答える。
「最近は女子とばっか遊んでたからさ。」
…。
確かにそうだ。
豊が家に来るのは久しぶりだ。
「あいにく、今は彼女がいないんでね。」
「ひっどーい! それってやっぱり俺より女ってことじゃん!」
不満そうに豊が言った。
仕方ないだろ、と信史は苦笑する。
「お前とはいつでも遊べるしさ。」
「まーそうだけどね…。」
ボスッとリビングのソファーに腰掛ける豊。久しぶりではあっても、何度も来た家。緊張感などは全く感じず、気楽に過ごせる。
「ゲームでもやるか?」
1週間ほど前に発売された対戦ゲーム、ス●ブラを信史は出した。1人でやっても信史には全く面白みがなかったが、豊とならまた違うだろう。
「あ、それ俺も買った! シンジには負けないよ〜!」
* * * *
始めて30分程度は、やはり経験の差か、豊の方が強かった。
が、信史は慣れるのも早い。1時間も経てば、勝つことの方が多くなっていた。
「もー、シンジなんでこんなに早く強くなれんの!?」
2時間ほど遊んだ後、あーあ、と豊はため息をつく。俺の1週間は何だったんだよ…とぼやいていた。
「まあ、これがセンスの差ですよ。豊クン。」
そう言って豊の頭をなでると、ソファーにぐったりと腰かけた。
「ちょっと休憩…。」
ポチッとテレビのリモコンを押す。チャンネルが変わり、ニュース番組が流れる。
「次のニュースです。今回の“プログラム”についてですが…。」
“プログラム”の言葉を聞いて信史はテレビに顔を向けた。
年に50クラス。自分の県での優勝者のことは、自分の県でしか放送されないが、今年は香川県からも選ばれていたようだ。
信史は今中学2年。
来年にはこの“プログラム”をすることになる可能性もあるのだ。
それはもちろん豊も同じだった。
「シンジ…。」
不安そうな声で呟く幼馴染を見て、信史はテレビを切った。
「俺たち…もし…。」
「言うな、豊。」
言いかけた言葉は、何となく分かっているから。信史は豊を抱きしめて言った。
「大丈夫だって。確率は800分の1もないらしいし。」
と信史は言ったが、豊の表情は暗いままだった。
もしも…の話はするべきではない。だが、豊の頭の中は不安でいっぱいなのだろう。
教科書にも出てくるその記述。授業でそれを音読せよと言われた時、隣の豊の声が震えていたのは、今でも覚えている。
気がついたら、信史の胸の中で、豊は涙を流していた。
嗚咽をこらえながら、でも泣いてしまった豊の頭を、信史は優しくなでる。
殺し合い。それもクラスメイト同士で…。
平和主義の豊に、そんなことできるはずもなかった。
でも、それでも信史は、
『大丈夫。俺がお前を守るから』なんて、言えなかった。
* * * *
薄れてゆく意識。ちくしょう、結局俺は何もできなかった。
このふざけたゲームから脱出することも、クソ国家に反抗することも。
豊…やっぱり守ってやれなかった。
あの時…1年前のあの時、守ってやるって言えなかった。
守りきる自信がなかったから。
約束を破ってしまうのが怖かったから。
俺…最低だよな。ごめんな。
もう…駄目だ。俺は、…もう終わりだ。
また会おうな…豊……。
もうすぐ……会えるから…な…。
→後書き