BATTLE ROYALE
□夏祭り
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季節は夏。秋也たちの家の近所では、年に一度の恒例行事、夏祭りが開かれていた。
「おっせーよ! 三村!」
怒る秋也の元に駆け寄る信史。怒るのも無理はない、既に10分も遅刻だ。
「悪い悪い、髪型セットすんのに時間かかってさ。」
言われて信史の頭を見上げると、いつも通り、いやそれ以上にキメている。
「はぁ? 俺と2人しかいないのにそんなにちゃんと整えなくてもいいだろ?」
「いや、学校の女子たちも大勢来てるだろうしな。ちゃんとしないと。」
お前と2人だからだよ…と内心思いながらも、信史はそう答えた。
相変わらずだな…、と呆れてため息をつく秋也。
「じゃ、行こうぜ。」
「ああ。」
* * * *
たくさんの屋台が並ぶ中、2人は色々と見て回った。
金魚すくいでは、信史は上手かったが秋也は全然で、すぐに破けてしまった。
「うわ…、もう終わりかよ。」
「残念でした〜七原くん。」
三村の得意げな表情が鼻につく。
「どうやったらそんなに取れるんだ?」
「コツっていうものがあるんだよ。何事もな。」
「くそ〜…。」
悔しそうに頭をかく秋也。そんな彼のことを、やはり信史は可愛いと思っていた。
「負けた方がわたあめ1つおごる約束だったよな?」
「…あー分かったよ! おごればいいんだろ!」
秋也は隣の店でわたあめを2つ買い、その内の1つを、ホラよ、とぶっきらぼうに信史に渡した。
「ありがとな、ベイビ。」
耳元で囁くように言うと秋也は顔を赤らめ、バカ、何言ってんだよ…などとつぶやいた。
その反応が予想外だった信史は、お? これはいい雰囲気なんじゃね? と勝手に考える。
その雰囲気をぶち壊す、高めの声が聞こえた。
「あ、シンジとシューヤ!」
2人が声のした方を振り返ると、クラスメイトの瀬戸豊と杉村弘樹、そして国信慶時の3人がご登場だ。
「なんでお前らもここに?」
「なんでって、普通に祭りに来ただけだろ。」
弘樹の質問に秋也が答える。
「え、じゃあ俺が誘っても秋也が断ったのって、三村と行くからだったの?」
慶時が不審そうに聞いてくる。
「だって、どうしても2人で、って三村が言うから…」
申し訳なさそうに答える秋也。
「シンジだって、俺誘ったよね? 祭りとか興味ないって言ってたくせにー!」
恨めしそうに信史を見る豊。
「あー、気分が変わったんだよ。」
信史は苦し紛れの言い訳をするが、豊にはバレバレだろう。信史が秋也を好きなことぐらい。
だから、思い切って言ってやった。
「今俺は七原とデートしてんの。それじゃまた〜。」
「は、はあ!? デート!?」
顔を真っ赤にして怒りだす秋也。怒っても可愛いなぁ、と信史が心の中で呟いたのは言うまでもない。
「ほおー。そうかデートか。邪魔して悪かったな。」
嫌味ったらしく言う弘樹。それでも信史は、心の中で杉村ナイス! と言った。
「えー、このまま別れるのー?」
と豊。
「いや、一緒に行こうぜ? 人数多い方が楽しいだろ?」
秋也! お前何乗ってんだよ!? と信史は思ったが、残念ながら4人ともそれに賛成のようだ。
はあ…と、信史は1人ため息をつく。
その後は、5人でまた色々と見て回った。
確かに楽しかったけれど。それでも、秋也と2人きりになりたかった信史は、あることを思いついた。
* * * *
「うわー! 花火キレイだねー!」
「スゲー! あ、デカイの来た!」
「やっぱり近くで見ると違うね!」
花火に感動する豊、秋也、慶時。それを一歩引いた位置で眺める信史と弘樹。
「ねえそこの2人、ちゃんと見てるの?」
「ああ見てるよ。綺麗だよな。」
豊が疑わしそうに聞いてくるので、杉村が答えた。
一方の信史は秋也に声をかける。
「ちょっと、あっち行こうぜ。」
「え? なんで?」
「花火良く見えるよ。」
信史は少し高くなった場所を指差した。そのまま秋也の腕を引っ張る。
「お、おい、みんなは…?」
「いいからいいから。」
そのまま抜け出してその場所へ向かい、ベンチに腰を下ろした。
「うわ、確かによく見えるな!」
喜ぶ秋也を見て、信史は「だろ?」と得意げに言った。
しばらく見ていたが、不意に秋也が「ねえ三村。」と信史に声をかけた。
「ん?」
「なんで三村は、俺と2人きりになろうとするんだよ?」
秋也の顔は、本気で戸惑っているようだった。まあ無理もないだろう。信史の一方的な好意など、秋也は知る由もない。
「知りたい?」
「知りたいって言うか…気になるじゃん。普通大勢の方が楽しくないか?」
まあ正論だな、と心でうなずき、それから信史は答えた。
「それは…お前のことが好きだから。」
…。
一瞬秋也の目が点になり、それからまた顔が赤くなった。
「な、な、…何言ってんだよ!?」
「俺は本気だぜ?」
「本気って…!」
焦る秋也。まあ信史も焦ってはいるのだが。顔に出さないだけで。
「秋也は、俺のこと嫌い?」
「え? き、嫌いなわけないだろっ。」
「じゃあいいだろ。俺とつき合ってよ。」
「はあ? なんでそんな話が飛ぶんだよ!」
信史は秋也の方に手を置いて、「七原。」と真剣な目で言う。
その視線が恥ずかしく、秋也は目をそらした。
「こっち見ろよ、七原。」
「だって…。」
「恥ずかしい?」
ビクッと秋也の肩が震える。
「そんなこと…ない。」
「七原…可愛いなお前は。」
信史がそう言うと、秋也の顔はさらに赤く染まった。
そのまま秋也を抱きしめると、バカ…何言ってんだよ、とか呟いた。
「…ごめんな、こんなこと突然言って。」
手を離して信史が言うと、秋也は顔を上げた。
「でも、俺…本気だから。」
「三村…。」
続く沈黙。耐えられなくなったのか、秋也は立ち上がった。
「は、早くみんなのトコ戻ろう!」
「ああ、そうだな。」
今頃探しているかもしれない。そう思って、2人で戻っていった。
探したんだよ!? と豊に怒られたが気にしない。
* * * *
「あのさ、俺…三村のこと好きかもしれない。」
帰り道、2人は他の3人より少し遅れて歩いていた。すると、不意に秋也がそう言ったのだ。
「さっきの…アレ、全然嫌じゃなかった。むしろ嬉しかった。」
アレ、とは、抱きしめたことだろうか、と信史は思う。
「ふ〜ん。」
ニヤけた顔で信史は言った。そして秋也に顔を近づける。
「な、何だよ…。」
「じゃ、俺がもっと好きにしてみせるよ。」
そっと耳元で囁くと、秋也は下を向いた。今、彼の顔は恐らく真っ赤だろう。
「可愛い奴。」
と追いうちをかけると、「…バカ三村!」と言って、先の3人の方へ走りだしてしまった。
バカでもいい。本気で好きになっちまったんだから仕方ないだろ、と信史は心の中で思いながら、彼らを追いかけた。
→後書き