ロイジニ30題
□12-理解できない人
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ロイドたちの旅が終わり、世界は救われた。
それでも、ハーフエルフへの差別はなくなったわけではない。
いや、完全にそれがなくなることなどないのかもしれない。
表面上は差別をしないように思っていても、心のどこかでは差別意識は残る。
幼いころからの、色々な教育、体験によって植えつけられたものは、なかなか取れない。
今日も、またそれを実感した。
ロイドと買い物に出かけた途中、ロイドが店に財布を忘れたことに気づき、取りに戻るから待っていろと言われた。
ボクは道端に座ってロイドを待っていたのだが、突然、声をかけられた。
「――お前、ハーフエルフだろ?」
体がビクッと震える。なぜ? なぜ気づかれた?
普段はただのエルフに見えるようにしているつもりだったのに、なぜ?
「い、いや…ボクは…。」
「とぼけんな! こっちは分かってんだよ!」
ガン、と振り下ろされる斧。恐怖で目を見開いた。
相手は、2mあろうかという大男だった。
「早く出ていけ! 汚らわしい!」
周りの人間は、止めるでも加勢するでもなく、何事もないかのように通りすぎる。
まあそんなものだろう。
「おい、聞こえねえのか?」
胸倉をつかまれる。やられる――と思った瞬間、何者かが男の腕をつかんだ。
「放せ。」
冷たい声。いつもの――いつものロイドとは違う、声。
男はロイドの視線、そしてその雰囲気にたじろぎ、あっさりとボクを解放した。
「行こう。」
ロイドに手をとられ、一緒に歩いて、街を出ていった。
「大丈夫か? ジーニアス。」
今日は、街を出てすぐのところにあった導きの小屋に泊まることになった。
「うん。何ともないよ。大丈夫。」
そう言ってボクが微笑むと、ロイドは安心したように、ベッドに腰を下ろした。
「ったく、何なんだあの男は! 大体なんでお前がハーフエルフだって分かったんだ?」
「…分かんない。もしかしたら、テセアラでハーフエルフたちを管理してたのかも。」
だとしたら、何となく、ハーフエルフの発するオーラか何かで分かるのではないだろうか。
「そっか…。まあ、無事でよかったよ。」
もしロイドが来てくれなかったら、今頃危なかったかもしれない。
理性のかけらもなさそうな大男だったから。
「…ねえ、どうしてロイドは、ハーフエルフを差別しないの?」
前にも…旅の途中にも聞いた質問。
「いつも、ボクらのことを体を張って守ってくれる。ロイドは人間なのに。」
「…前にも言ったろ。俺は、生まれとかそういうので、嫌ったりするのは嫌なんだ。」
「でも…。」
「差別されたいと思うハーフエルフなんていないだろ? 差別することで悲しむ奴がいるんなら、俺は、絶対にそんなことしない。」
「…そっか。」
ボクはごろん、とベッドに横になった。
(でも…やっぱり理解できないよ。)
その優しさが。こんなに優しいヒトは、そうそういないだろう。
ヒトに対する嫌悪感と憎悪でいっぱいだったボクの心は、ロイドたちと出会ったことで、少しずつ綺麗になっていっている。
いつかは、分かるのだろうか。ヒトの心の奥に眠る『優しさ』が。
→後書き