Novelette

□Negotiation
1ページ/10ページ

 何なんだいったいと、草架 正義(くさか まさよし)は思いつつも、ある場所に向かっている。正義は晴れて、警視庁の刑事となれたと思いきや早々に異動という扱いで交渉窓口課とか、聞いたこともない部署に就くことになった。
命令は、刑事部長の直々だったのは驚きだ。

「交渉窓口課は、基本的に君が一人だけだ。刑事課に来て早々の異動は申し訳ないがね」

 これを聞いて愕然となるが、抗議しようにも何の役目なのかよくわからないから、何も言えない。

(所謂、左遷とかかな。なんかそんな刑事もののドラマがあったな……)

 何て思いつつも、辿り着いた先が都会のど真ん中にありながら別世界のような空間の所だ。ビルとビルの間にひっそりと佇む建物には見慣れない十字架が掲げられてある。
教会なんて、純粋たる日本人の正義にとって縁がない。信者とかならあるかもしれないがせいぜい、結婚式の印象なのが関の山だった。

「教会……交渉ってまさか、牧師か何かってことか?」

 疑問に感じつつも、教会の正面入口から中へ入る。中は高い天井で祭壇と十字架が設置されてあるが、それは十字架に掲げられた聖人のものだ。
正義は、自身の場違い感にため息をつくも気を取り直して声を上げる。

「すみません。誰かいますか?」

 高い天井なので声が響く。しかし、誰も出てくる様子がなくて訝しげに一歩、前を歩くといきなり少年の姿を目にして驚いた。
礼拝所に設置されているベンチ型の椅子で、横になっていたようだ。

「ふぁ……いつの間にか寝ちゃってた。って、あれ?」

 少年は正義に気づき、振り返る。アイドル風の顔立ちで美少年という感じだが、正義は首を傾げた。

(あれ? 今日は平日)

 見た目からして、男子高校生くらいの子だ。それならば学校に行っている筈だと思っていると、少年が言うのだ。

「おじさん、不審者? 何で勝手に入ってきてるの」
「不審者って……。俺はこう見えて、警察官で」
「警察……。あ、クリスに用があるのか」

 なんて言いつつ、少年は飛び起きて奥に入っていく。どうやら、交渉の相手はクリスという名らしい。
その名を聞き、正義はふと既視感を覚えた。無論、同名の別人の可能性があるが。

(いや、相手は外国人なのか!?)

 ますます、訳がわからなくなっているとあの少年が奥から出てくるが同時に、クリスと呼んだ者も姿を見せて正義はえっ?となる。
相手も正義を見るなり、戸惑いの表情が浮かぶ。

「何か、見覚えが……」
「いや、それは俺もで。音桐……クリス?」
「思い出した。草架 正義、ガキの頃。よく遊んでた」

 これを聞いて、少年が珍しげな表情でクリスこと音桐 クリスを見ていた。


 懐かしさもあったが、一方で交渉窓口課という訳のわからない部署の仕事で、この教会にやって来た。その交渉相手が音桐 クリスであることに正義は戸惑いのが強く表れた。

「そもそも、交渉窓口がどういう仕事か全く説明されず、いきなり命じられて」
「それは、不運だったな。恐らく、体よく新しく加わったお前に押しつけたんだろう」

 笑いながら音桐が言ってきたのを見て、正義はムッとなり言い返す。

「他人事だと思って……」
「悪かった。ただ、俺としても警察関係者の窓口がよりによって、知り合いになるとか思わなかったが」

 そう言うと、眉間を狭めて困った表情を見せる。ちなみに、少年は諸羽 琉依(もろは るい)と言うと音桐自身で言ってくれた。


次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ