Novelette

□純情剣士
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 それは、女子生徒だけではなくて静もだ。
目が合うと、恥ずかしい気持ちとなり誤魔化す為に、本に視線を戻す。
この二人以外の者は、静と女子生徒の変化に怪訝そうに首を傾げていた。

(やっぱり、断った方が良かったかな?)

 彼女らが離れ、一人になると静の頭の中でそんな考えが浮かぶ。
ただ、今更に断るというのも失礼だとも思う。
せっかく誘ってくれからだと思い直して、ネガティブな考えを振り払った。
日曜までの間は、静は普段の生活と共に剣道の道場に通う。
颯と打ち合ったり、彼の冗談を聞いたりして特に代わり映えのしない流れである。
ただ、颯に何か迷いがあるように感じられた。

「王条くん、何か悩んでいるの?」
「そりゃあ、思春期だから悩みの一つや二つはあるって」

 相変わらずの調子だったし、颯の表情も深刻な色がなかったから静は、それ程には気にかけなかった。
そうして、同級生たちと映画観に行く約束の日曜日となる。
同級生たちと行動していく中で、静の隣には常に目の合った女子生徒と隣り合っていた。

「何だか、緊張するね」

 苦手意識はあっても、女子生徒を慮り何かと声をかける。
場を白けさせるのが申し訳なかったし、自分自身の緊張を紛れさせたかったのもある。
そんな訳で、女子生徒とはいい感じの雰囲気で、何も知らない者が彼と女子生徒を見れば、カップルだと思うぐらいの雰囲気だ。
映画を観終わり、映画館から併設されているショッピングモールへ、同級生たちと歩いていると。

「静!」

 突然、下の名前を呼ばれたので驚きながら声のした方向へ振り向く。
すると、そこには颯の姿があり静は、二度驚いた。

「王条くん!?」
「静……お前、デートか」

 そう聞いてくる颯が、どこか不機嫌な感じであり、静は戸惑いを隠せない。
軽口を言って、子供のような表情の多い颯にしては珍しい表情だ。
戸惑いつつも、静が慌てて手を振りながら。

「違う、違う! 友だちと映画を」
「ふーーん」

 少し納得できてない様子であったけれど、それ以上の追及はしてこなくて、静はホッとする。
颯の方は、中年の男女に小学生らしき女の子がいた。

(家族かな……?)

 そう思っていると、中年の男女と目が合ったので、慌てて軽く会釈だけはしておく。
こうした静の様子に、同級生たちも集まってくる。

「巽宮、どうした?」
「その子は?」

 これを見て、颯は何も言わず静へ背を向けて離れていく。

「あっ!」

 止めようとした静であったが、その間もなく颯は家族の元へ戻ると、そのまま買い物客の中に消えていった。

(何だろう。王条くんを怒らせた気がする)

 静はふと、そう思ったけれど何でそうなったのかわからなかった。


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