そう言えばと、静も今になって気がついた。
「うん。でも、学校や住んでいる場所が違うから、あんまり縁がないから」
「なんか……道場外でも会ったりしね?」
颯が言ってくるので、静は戸惑う表情を見せる。
決して、颯と会いたくないとかではない。試合の時は積極的に攻めていく静だが、面を取ると人が変わったように大人しくなる。
それは、普段の静の姿であった。
「ご……ごめん。何だか恥ずかしくなってくる」
「恥ずかしいって、静なぁ」
「王条くん、ありがとう。で、でも僕はこうだからさ」
そう言って、颯から逃げ出す形で駆け出した。
これを見送った颯の顔には、ポカンと呆気に取られた表情が浮かぶ。
「今時、んな純情っぷりはないぜ」
とため息混じりで、漏らすのであった。
少なくも、静と颯との付き合いは道場に通いだしてから始まる。
一年先に、颯がいたけれど彼はそれまで、剣道を今のようにのめり込む程は打ち込んでなかった。
颯の父親が警察官とあって、その影響で無理やりに入門させたられたのだ。
男なら強くあるべき。と古い考えもあり、尚更である。
(俺もよくやる)
颯の容姿は、均整の取れて髪型も今風に整えられ、派手さはない自然な茶髪である。顔立ちも、女性受けするものだ。
実際、颯は学校で女子生徒に人気がある。
しかし、軽口で言葉を交わしたりするが、付き合った試しはない。
「俺は剣の道を極めるのさ」
そう周りにはうそぶく。
本心はともかく、颯の成績は静が入門直後から一気に伸びて、いつしか静と颯は道場での竜虎となっているのだ。
普段の静は、物静かというより大人しいといった具合である。
学校では、昼の休憩時間などに読書ばかりしており、同級生との関わりが少ない。
だからと、人付き合いができないとかではなく、苦手なだけである。
それでも、私立で有名なこの学校で成績上位者に連ねているし、黒髪の爽やかな容姿で読書を好み、剣道という古風なものに打ち込む静を、注目する女子生徒も少なくなかった。
「ね……巽宮くん」
同級生の女子に声をかけられ、静は読んでいた本から顔を上げる。
声をかけた女子の他に、彼女の友人らしいのか男女が何人かいた。
「なに?」
「今度の日曜に、映画を観に行かない? 優待券が当たったの」
そう言って彼女の手に優待券のチケットが扇ように持ち、ヒラヒラと動かしている。
一度、視線を逸らし静は考え込む。しかし、その時間はほんの少しですぐに返答した。
「いいよ。何時?」
「日曜の10時半よ。何を観るかはその時に決めるから」
「うん。わかったよ」
そう返した後、彼女の後ろにいる他の女子生徒と目が合う。
この女子生徒は、静と目が合うや顔を赤くして慌てて顔を俯ける。