Novelette

□純情剣士
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 竹刀を手に立ち上がると、道場内の空気はガラリと変わる。
一瞬して静寂に包まれ、周りの視線が二人へジッと注がれ、誰もが固唾を飲み込む。
面の中で、巽宮 静(たつみや しずる)も深呼吸を一つする。
正眼に構える竹刀の柄をギュッと握って。

「イヤァ!」

 凛々しい声を発して、相手へ攻め込む。
これに相手はうまく竹刀を合わせ、静の打ちたい場所を防ぎ鍔迫り合いに持ち込んだ。
ひと呼吸、そうしていたが再び静は攻めよう動きかけると、僅かに相手が身を引く。
これに、静の体勢が崩れその隙に相手の払いが胴に打ち込まれた。

(やられた!)

 そう思っても、後の祭りである。

「一本!」

 審判を務める師範代の声が響くと、静は悔しそうに唇を噛む。
瞬間、オォッとどよめきが吐息と共に漏らす。
二人は試合後、道場の端に行き面を取った。
道場内は、先程の静けさとは一変して、声と竹刀の音が聞こえる賑やかな雰囲気となる。

「これで、何勝目だっけか?」

 静の隣に座る、王条 颯(おうじょう はやて)がニヤニヤと笑いながら、聞いてきた。
試合時に見せる表情とは違い、軽い調子のくだけたものを見せる。
一方の静は、試合では負けん気の強かったが、面を取るとそうした態は引っ込んでしまう。

「わからないよ。ただ、目の前の試合を一つ一つ全力で戦ってるから」
「ふぅん。そんな、真面目にならなくても」

 呆れを含ませ、颯は言うので静は苦笑する。
颯と静は、同じ剣道の道場に通う。言わば同門の友で歳も同じだ。
ただ、性格や戦いは真逆なものを見せている。

「しかし、よく上達したよな。入門したての頃は打たれて負けると、ピーピー泣いてたよな」

 颯がからかい混じりの思い出話を言うから、静の顔はカァと赤くなっていく。
試合形式の颯との練習もあって、肌が紅潮していたから色合いは、余計に強調される。

「すげぇな。真っ赤かだ」
「王条くんだって、不思議だよ。普段はそうやって軽口を言ったり、からかう事が多いに試合の時はキリッとしててさ」
「惚れたか?」

 颯が笑みながら聞いてくるけれど、静は少し困ったように眉を寄せながら。

「男の僕が、そんな風になる訳ないよ」

 この返答に、颯は何か言いたげで口を開きかけたが。

「おーーい、静。ちょっと相手してくれ」

 と別の者から声をかけられたので、颯との会話はそれで止まり彼もそれ以上は話さず、彼も別の仲の良い者の所へ行く。
静は、ふぅと大きくため息を吐き出すと稽古へと汗を流すのであった。


 静が剣道の道場へ通いだしたのは、たまたま通りかかった時に覗いて試合形式の練習を見た瞬間、これだと思ってやり始めた。以来、10年近く通っている。

「そう言えば、静とは道場でこそ顔を見合わせてるけど、外で会わないよな」

 颯と道場から帰宅をしている最中、そう彼が唐突に言ってくる。


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