男性の様な狩りの格好だけれど、中身は明らかに女性だ。
彼女は手にしていた槍で、猪にとどめを刺す。
猪は最後の呻きを上げ、バタリと従僕の目の前で息絶えた。
「大丈夫かしら?」
従僕はポカンと、猪と騎乗の女性を交互に見つめた。
そんな従僕を尻目に、女性はにっこりと微笑み後方へ振り返る。
視線の先に、弓を携えたうら若き乙女がいるも、その目は冷徹に猪を射抜く。
「おぉ、コラーダ、ケイ。よく仕留めた」
ランチャーは当然の様にして、彼女たちへ称賛を送ったが、ラディウスはやれやれと安堵と共に彼女たちを見てて、呆気に取られていた。
そう。彼女たちは、ランチャーの娘たちで女性ながら、狩りに参加するアマゾネスだ。
「父上!」
「よく仕留めたな。エルミスよ」
ラディウスへ肩にトトを載せながら、エルミスが寄ってくる。
ラディウスが、褒めてやるけれど何度かコラーダとケイを、見やっていた。
「噂通りの女性たちですね」
と、思わず苦笑を滲ませる。
ホルク家の女性は、アマゾネスだと称されていたけれど、ラディウスも半ば軍人一族であるホルク家への揶揄だと思っていた。
けれど、実際にその一端を目の当たりにして、認めるしかない。
「まったく。娘たちが男であったなら、どれだけ頼りになるか。特にケイがな」
ランチャーは言って、悔しがる。
そんな表情だけに、相当だとラディウスは思う。
(こうなってくると、あの話が眉唾物になりそうであるが)
それは、長女コラーダの婚姻が持ち上がっている。
相手は、ホルク家と同様な古くからある家柄。カルヴァヌス家からと聞いているが。
ふと、ラディウスはある事を思い出す。
カルヴァヌス家と言えば、最近になって不幸が続いていると聞く。
跡継ぎであった長男と次男を三年前に亡くし、ようやく庶子を見つけだしたが、その庶子がまた問題児であったのだ。
(そんな者を、大事な長女と婚姻を結ぼうとするのは、見込みがあるからだと思いますが)
シーク家は、司法官として務めているだけに、他よりも早く正確で誰よりも、深く真実を得なければならない。
だからこそ、シーク家の情報はヴァニス一だと、評判だった。
しかし、カルヴァヌス家の問題児が、果たしてランチャーの眼鏡に適うかは、さすがにわからない。
元より、その問題児の情報が乏しいから尚更だ。
「父上、もう一度トトと共に狩りに行ってきます」
考え込むラディウスへ、エルミスが言うと再び狩りをする為、馬を踵返した。
一方、ホルク家の所領近くにある木の上で、男は器用に身体をもたれかけながら、瞼を閉じている。
赤みの帯びた髪が、さらりと風が撫でていく。
「鷹……ですね」
木の下で、空を見上げていた男が漏らす。