Novelette

□桃色草子 ー西遊記ー
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 地上で暴れ回り、天界でも暴れ回った岩石より生まれし石の精の妖怪は、お釈迦様より暴れ回った罰として五行山へ封じられた。

(あ〜〜、退屈だな)

 そう思うのは、封じられている妖怪である。
お釈迦様は、封じた際にこう言っていた。

「今から、500年後にそなたを出してくれる者が現れるであろう」

 これを聞いた時、妖怪は愕然となったし500年の年月は、長いとも思っていたが。
ようやく、その日を迎えて出してくれる者を今か今かと待っている。

「よぉし、ここから出たら存分にまた暴れてやるからな!」

 反省の色が見受けられない言葉を呟き、待ち遠しとなるのだった。
そんな理由で、五行山の麓で暮らす人々は封じられた妖怪を恐れ、五行山には滅多に近づかない。
しかし、その封じられし妖怪へ会うべく、旅の僧侶が五行山を登っていた。

「ふぅ……随分と登ったがお釈迦様が封じた妖怪は、どこだ?」

 麓で山の案内を頼んでけれど、全て断られてしまい僧侶は些かうんざりとしている。
だが、泣き言は言ってる暇はない。
何故なら、西方の遠い天竺まで行き、ありがたいお経をもらって来ないといけなかったのだから。

(お釈迦様もとんだドSな方だ。パッと与えればいいのに取りに来いなどと)

 一休みしながら、そう思う。
こんなことを口に出してしまえば、顰蹙を買うので全ては心の中での悪態である。
ふと、視線を巡らせて山の中腹に見える奇妙な形の岩が見えて。

「あぁ、あれか」

 そう漏らし、立ち上がり山を登っていくのであった。
さて、ついに運命の時が訪れる。
僧侶が奇妙な岩の前にやって来ると、何やら古いお札がいくつも張りつけられてあった。

「やれやれ。えぇっと、オン、バサラ、ウン、ソワカ」

 印を組み、真言を唱えるやお札がペロリペロリと剥がれ、入り口が生まれる。
中にいた妖怪は、これにワッと喜び飛び出す。
妖怪は、小柄ながら敏捷性のある身体つきで、顔立ちなどを見ると年月を得た妖怪というより、少年といった風貌をしている。

「ほほぉ」

 顎に手をやり、僧侶は興味深げに少年の姿の妖怪を見つめる。

「やぁやぁ、我こそは斉天大聖、孫悟空様とは俺様のことよ」

 と、見得を切った。
小柄な体格であるが、敏捷性を見るように無駄な肉のない、しなやかな身体つきをしている。
強気で生意気そうな顔つきで、くりくりとした大きめな瞳が僧侶を見つめる。

「なぁんだ。誰かと思ったらひょろい坊主か」

 小馬鹿にした態度でそう言って、嘲笑う。
そんな悟空の態度を見つめていた僧侶、玄奘はあっ?と訝る声を発してから。

「どこの腕白小僧かと思ったが、どうやら山の小猿のようだな」

 玄奘の言葉を聞いた悟空は、まともにムッとした表情が浮かぶ。


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