Novelette

□聖人と悪魔
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 カランカラン。高らかにベルの音が響き渡っていた。
近くを通りかかった者や並んでいる者からひと際、注目が集まる。

「おめでとうございます。一等の温泉旅行券を当選しました」

 と、中年の男性が言うと賞品である旅行券の入った祝儀袋を、差し出してきた。
一等が当たっただけで、人の注目が集まった訳ではない。

「これを、受け取ればいいのか? 晴貴」

 そう言っているのは、お洒落な雑誌なんかの表紙を飾りそうな、整った容姿をした外国人風の男で、いやでも目を引く。
その男が、隣の若い男へ不思議な様子を見せる。

「あぁ。お前が当てたから当然だ」

 外国人風の男へ、そう返したのは成宮 晴貴(なるみや はるき)であった。
そして、外国人風の男はシュヴァラといって、実は悪魔だったりする。
二人は、商店街で買い物をしてその商店街のお楽しみ企画の福引券をもらい、福引きを行った訳だが。

「まさか、1回分で当たるとはな」
「我の前にいた者は、10回分の福引券を持っていたが、全部ティッシュ箱に変わっていたぞ」
「数が撃てば当たる訳じゃないのが、目に見えてわかるな」

 シュヴァラの言葉に、晴貴が笑っている。
そうして二人は、商店街から自宅へ戻ったけれど住んでいるのが、如現寺という寺であった。
寺に悪魔が住んでいるのは妙な話だが、今ではシュヴァラは我が家同然のものだ。
途中、二人はコンビニで肉まんを買い、公園へ行くとベンチに座って食べつつ休憩を取る。

「しかしまぁ、あれから半年か」
「何がだ」
「シュヴァラと出会って、一緒に暮らす様になってだ」

 それを聞いて、シュヴァラの顔にもしんみりとしたものが浮かぶ。
寺の息子である晴貴が、悪魔派遣サービスへ電話をかけ、シュヴァラを喚び出した。
最初は、晴貴とは契約を結ぶかどうかでしかの間柄だったが、彼と打ち解けてゆき今では恋人関係となった。
軌跡を思い描いていたシュヴァラを、晴貴が肩へ腕を回し抱き寄せる。

「大学受験も終わったし、後は果報を寝て待つだけだしな」

 そう言って笑みを浮かべる晴貴へ、シュヴァラは少し頬を染めながら寄り添う。
二人の間に、幸せな雰囲気が包まれていった中、場を乱す騒ぎが後方で起こる。

「なんだ、お前は!」
「いちゃもんつける気か」

 男の凄む声に、晴貴とシュヴァラは同時にお互いの顔を見合わせ、騒ぎの方へ振り返った。
すると、騒ぎの場は少し離れた所でいかにもな男の二人組と、二人組に迫られているのは若い感じのした神父らしき男性であった。

「言いがかりではありません。ご友人を脅していたではありませんか」

 男の凄みに、若い男性は動じる事なく言葉遣いもよく、返すのだ。
若い男性の言葉に、一瞬だけ二人組はきょとんとなるが、すぐに大声でゲラゲラと笑った。


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